炎上案件の多くは、問題が見えた時点ではすでに手遅れに近い状態になっています。「先月まで大丈夫と思っていたのに」というのは、毎月確認していなかったか、確認していても表面の進捗しか見ていなかったかのどちらかです。
月初に一度、担当している案件を棚卸しする時間をとってください。確認する項目は5つのリスク領域に絞れます。この棚卸しが習慣になると、「ここ数週間で少し気になっていたこと」が早い段階で言語化され、対処する時間ができます。
炎上予防は月初の棚卸しから始める
なぜ月初なのかというと、月を跨ぐタイミングが一番見通しを更新しやすいからです。
月末の納期確認や課題対応が終わった後、翌月の計画を立てる前のタイミングに「今抱えている案件で、この先1〜2ヶ月で問題が起きそうなことはないか」を確認します。
問題が起きてから動くのではなく、問題が起きる前の兆候を見つけることが目的です。
リスク1:スケジュール
確認する視点:直近2週間の進捗は計画通りか。来月末の時点で完了しているべき作業は現在のペースで完了できるか。遅延が発生した場合に吸収できる余裕はあるか。
兆候として注意するもの:担当者から「ちょっと時間が足りないかも」という発言が出ている。週次の進捗会議で遅れがリカバリ前提で説明されている。バッファが半分以上消化されている。
スケジュールリスクを確認するときは「残作業量÷稼働可能日数」で実際の密度を計算してみてください。感覚ではなく数字で見ると、余裕があるかどうかの判断が変わります。
リスク2:品質
確認する視点:現在の品質状況(バグ件数・テスト消化率・未解決課題数)は想定範囲内か。テスト計画は実際の開発進捗と合っているか。
兆候として注意するもの:バグの発生率が前フェーズより高い。テスト消化が計画より遅れている。「動くが不安定」という報告が開発者から出ている。
品質リスクは、テストフェーズに入るまで表面化しないことが多い。開発フェーズ中から「ユニットテストは実施されているか」「レビューの密度に問題はないか」を確認しておくことで、テストフェーズに入ってからの大量バグを減らせます。
リスク3:コスト
確認する視点:現時点での消化工数は計画内か。追加対応や仕様変更の影響は工数見積もりに反映されているか。予算超過が見えてきた場合に上司・顧客に報告できる状態になっているか。
兆候として注意するもの:仕様変更・追加要望の対応が積み上がっている。見積もり外の作業が発生している。「これはサービスでやります」という対応が増えている。
コストリスクは、個別の対応では小さく見えても合計すると大きくなっていることがあります。追加対応の工数を週次で記録しておくと、月初の棚卸しで全体が見えます。
リスク4:顧客期待値
確認する視点:顧客が今期待しているものは、プロジェクトで対応予定のものと一致しているか。直近の定例会で出た要望・意見はスコープ確認が必要なものではないか。
兆候として注意するもの:定例会で「〇〇の機能はどうなっていますか」という確認が増えている。「最初のイメージと少し違う」という発言が出た。要望の粒度が細かくなってきた。
顧客期待値のズレは早い段階で確認するほど対処しやすい。「顧客が最近どういうことを言っているか」を一度書き出すだけで、リスクが見えやすくなります。
リスク5:体制と負荷
確認する視点:担当メンバーの工数は現在の計画で適切か。特定のメンバーに過負荷がかかっていないか。体制変更(離任・参加)が発生した場合のリスクはあるか。
兆候として注意するもの:特定のメンバーが毎週残業している。「これ以上は厳しいです」という発言が出ている。1人の担当者に知識・スキルが集中している。
体制リスクは、発生してから対処しようとすると遅い。月初の段階で「この先1ヶ月で体制が揺らぐリスクはないか」を確認しておくことで、事前に動けます。
月初チェックを定例化する
月初チェックは、30分の時間を設けて紙1枚に書き出すだけでも十分です。
「5つのリスク領域のうち、今月注意が必要なものはどれか」「そのリスクに対して今月中に取るアクションは何か」を確認します。アクションが決まったら担当者・期限を記録して、翌月の棚卸し時に振り返ります。
担当案件が複数あれば、案件ごとに同じ確認をしてください。「どの案件にリスクが集中しているか」の全体像が見えると、リソース配分の判断にも使えます。
5リスクを素早く評価する簡易フォーマット
月初の確認を30分で終わらせるために、以下のような1枚のシートを使うと効率的です。
| リスク領域 | 今月の兆候 | レベル(赤/黄/青) | 今月のアクション |
|---|---|---|---|
| スケジュール | |||
| 品質 | |||
| コスト | |||
| 顧客期待値 | |||
| 体制・負荷 |
レベルは3段階でざっくりつけて構いません。「赤:今月対処必須」「黄:要注意・継続監視」「青:問題なし」です。全案件を赤にしてはいけないプレッシャーが働きがちですが、事実を見て色をつけることが重要です。
「今月は赤が1件ある」という認識を月初に持つだけで、その案件への注力が自然に増します。
リスクを発見したときの最初の一手
月初チェックでリスクを発見したとき、まずやることは「誰に共有するか」の判断です。
スケジュール・品質・コストのリスクは、上司・PMOへの共有が先です。「こういうリスクが見えている、対処方針はこれで考えている」という形で共有することで、後から「知らなかった」という事態を防げます。
顧客期待値のリスクは、次の定例会議のアジェンダに追加します。「最近のご要望の中でスコープ外になるものがあれば、今月中に整理させてください」という形で議題を立てると、顧客との認識合わせが自然にできます。
体制・負荷のリスクは、個別面談またはリソース調整の検討です。問題が表面化する前に「今月末のリソースを確認させてください」と担当者に声をかけておくことが有効です。
月初チェックを継続させるコツ
月初チェックは「やったほうがいい」と分かっていても、忙しい月は後回しになりがちです。継続させるために有効な工夫を2つ紹介します。
月初の最初の営業日を「棚卸し日」としてカレンダー固定する。30分のブロックを入れておくだけで、習慣化が進みます。会議の合間に後回しにして結局やらない、というパターンを防ぐには、最初から時間を確保することが最善です。
前月のチェックシートを見ながら比較する。先月「黄」だったリスクが今月「赤」になっていれば、それは兆候が悪化しているサインです。比較のために前月のシートを保存しておく習慣が、月次確認の精度を上げます。Excelの別シートでも、テキストファイルでも、残しておくことに意味があります。
月初チェックは、炎上してから後悔するコストより、毎月30分を投資するコストの方が圧倒的に小さいです。最初の3ヶ月続けると、案件の変化のパターンが掴めてきて、確認そのものが速くなります。
PMOがいる組織であれば、月初チェックの結果をPMOと共有することも有効です。PMO側が複数案件を横断的に見ているため、「他の案件でも同じリスクが出ている」という情報を得られることがあります。単案件のリスクが実は組織横断の問題であるケースは少なくなく、PMO共有によって解決策のリソースが引き出せることもあります。
現在担当している案件のリスクを確認するには、PJ炎上 初動ナビを試してみてください。月次リスク管理と炎上予防の実務については、炎上予防・立て直しパックで体系的に学べます。
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