「リリース日を延ばしてほしいんですが……」とだけ伝えに行くと、顧客は「どれくらい延びるのか」という話から始まり、「なぜそんなことになったのか」という話に入ります。そして最終的に「何とかしてください」という状態になることがあります。
納期再交渉に「延期の依頼」だけを持っていくと、顧客は「No」か「仕方なくYes」の選択しかできません。しかし「代替案のリスト」を持っていくと、顧客は「どれが最もビジネスにとって良いか」という選択ができます。これが交渉の場の質を変えます。
本記事では、納期再交渉の前に作るべき代替案の4パターンと、顧客への提示方法を整理します。
納期再交渉は延期依頼だけでは弱い
「延期してほしい」という依頼だけを持っていくことの問題は、顧客の立場で考えると分かります。
顧客には顧客なりのスケジュールがあります。ユーザーへの告知、社内の移行計画、連携するシステムの準備、経営陣への説明——「延ばしてください」と言われると、これらすべての調整コストが顧客に発生します。
だからこそ、「延ばすこと以外の選択肢はないか」を事前に考えて持っていく必要があります。延期以外の選択肢が提示されることで、顧客は「この担当者は自分たちのことを考えてくれている」と感じます。
代替案1:スコープ調整
「全機能を納期通りに」ではなく「主要機能のみ納期通りに、残機能は後フェーズで」という案です。
確認する観点:「今回のリリースで必ず必要な機能」と「後のフェーズでも許容できる機能」を分けられるか。機能の分離がシステムのアーキテクチャ上可能かどうか。
顧客にとっては「コアな機能だけでも使い始められる」という利点があります。一方で「期待していた機能がすぐ使えない」という欠点もあります。
代替案2:段階リリース
「一部の部署・ユーザー・機能だけを先行リリースし、全体リリースは後ろにずらす」という案です。
確認する観点:先行リリースが技術的・業務的に分離可能か。先行で問題が出た場合に後続リリースを調整できるか。
顧客にとっては「一部でも早く使い始められる」という利点があります。段階的なフィードバックも得られます。全体への適用には別途調整が必要という欠点があります。
代替案3:優先順位変更
「現在進行中のタスクの中で、後回しにできるものを整理して今回のリリースに集中する」という案です。
確認する観点:現在計画されているタスクの中に、今回のリリースに関係しない作業が含まれていないか。後回しにした作業のコスト(手戻りリスク、次フェーズへの影響)はどの程度か。
プロジェクト内部での調整で対応できる場合、顧客への影響は小さくなります。
代替案4:体制・作業順の見直し
「追加リソースを投入する」「作業の並行化を進める」という案です。
確認する観点:追加リソースの調達が現実的か(コスト・時間・引き継ぎコスト)。並行化できる作業はどこか。追加した場合のコスト増は顧客への費用説明が必要かどうか。
追加リソースで対応する場合、プロジェクト参加の立ち上がりコストを計画に含める必要があります。「人を追加すれば即座に解決する」という判断は危険です。
顧客に提示する比較表
4つの代替案を顧客に提示するときは、比較表の形にすると分かりやすくなります。
| 案 | 概要 | 顧客への影響 | コスト/工数 | 納期 |
|---|---|---|---|---|
| A(スコープ調整) | 主要機能のみ〇日リリース | 一部機能が〇日以降 | 変更なし | 維持 |
| B(延期) | 全機能を〇日リリース | 全機能そろう、〇日スケジュール調整必要 | 変更なし | 〇日延期 |
| C(段階リリース) | 〇部署先行〇日、全体〇日 | 段階的に使い始められる | 一部追加 | 一部維持 |
比較表を渡すことで、顧客は「自社の優先事項に基づいてどれが最善か」を判断できます。PMが「この案を選んでください」と誘導するより、顧客が選んだという形にしたほうが、その後の合意が安定します。
代替案提示後の顧客の意思決定を支援する
代替案を提示した後、顧客がすぐに判断できない場合があります。「社内で確認します」「もう少し時間をください」という返答は珍しくありません。
このとき、PMがすべきことは「判断期限を提案すること」と「判断に必要な追加情報があれば用意すること」の2つです。「〇日までにご判断いただけますと、スケジュール上の影響を最小限に抑えられます」という形で、判断を促す理由とセットで期限を示します。
顧客が判断を先送りするほど、PM側の選択肢が減ります。「いつまでに判断が必要か」を顧客と合意することが、代替案提示の次のアクションとして最も重要です。
交渉の記録と書面化
納期再交渉の場では、口頭で合意した内容を必ず会議後に書面(メール・議事録)で確認してください。「延期することで合意した」「案Bで進めることになった」という事実が書面に残ることで、後からの解釈の差異を防げます。
書面化の際には「決まったこと」と「今後の確認事項」を分けて記載します。「決まったこと:リリース日を〇日に変更する」「今後確認すること:一部機能の先行リリースの可能性は〇日までに検討する」という形が理想的です。交渉の場が終わった後の「書面化」が、納期再交渉を確実に着地させる最後の手順です。
代替案が受け入れられないときの対処
顧客が代替案のいずれも受け入れられない場合があります。「Aは品質リスクが高い、Bは延期幅が大きすぎる、Cは段階リリースでは業務が回らない」という状況です。
このときPMがすべきことは「第4案を即席で作ること」ではなく、「前提を変えられないか確認すること」です。「現在の体制・範囲・期日の3つの制約のうち、最も優先度が低いのはどれですか」という問いを顧客に投げかけることで、交渉の余地が見えることがあります。
どの制約も変えられないと顧客が言う場合は、「現在の前提では品質を保証しながら納期を守ることが難しい」という事実を、PMとして正直に伝える必要があります。プロとして「できないことはできない」と伝えることが、長期的な信頼関係を守る行動です。
代替案を「選択肢」として提示する技術
顧客に代替案を提示するとき、「我々はAを推奨しますが、BとCも可能です」という形で提示するだけでは、顧客が判断しにくいことがあります。選択肢を「判断しやすい形」に整理することが、代替案提示の技術です。
効果的な方法は「各案のトレードオフを1行で表現する」ことです。「A案:品質優先・納期2週間延期・コスト増なし」「B案:納期優先・品質リスクあり・後日保守費用発生の可能性」「C案:一部先行リリース・全体納期1ヶ月延期・業務への影響最小」という形で、1行で本質が伝わるようにします。
比較表の形で提示すると、顧客は「何を比べればよいか」が分かりやすくなります。代替案の良さは内容だけでなく、「提示の仕方」によっても顧客の受け取り方が大きく変わります。
代替案の提示は「謝罪」でも「言い訳」でもなく、「プロとしての問題解決の提案」です。選択肢を整理して顧客に示すことで、PMとしての信頼は維持されます。困難な局面でも選択肢を用意できるPMが、顧客から長期的に頼られる存在になります。
代替案を事前に準備することで、納期再交渉の場での動揺を防げます。選択肢を提示する側が交渉の主導権を持ちます。顧客が判断しやすい形で選択肢を示すことが、PMとしての問題解決力の証明です。
納期再交渉の実務と代替案の作り方については、炎上予防・立て直しパックで体系的に学べます。PJ炎上 初動ナビでは、現在の炎上レベルと最初に取るべきアクションを確認できます。