「〇〇のシステムを作ってほしいんですが、いくらになりますか?」
こういう依頼を受けたとき、即座に見積もり金額を出せる状態ではないはずです。「〇〇のシステム」という一言の中に、どれだけの機能・条件・制約・前提が含まれているか、聞いただけでは分からないからです。
このまま担当者に「見積もっておいて」と渡すと、担当者も「どの範囲で見積もればいいか」が分からず、広く取りすぎたり、逆に狭すぎて後で追加が発生したりします。
この記事では、見積もり依頼を渡す前にPMが行う顧客要望の分解を解説します。要件定義の全プロセスではなく、「見積もれる状態に整理する」ための分解です。
要望をそのまま見積もると危ない理由
「要望を分解せずに見積もる」とどうなるか。
担当者は「たぶんこのくらいの範囲だろう」という仮定で見積もります。その仮定が顧客の期待と異なっていた場合、見積もり後に「それも含まれてると思ってた」という話になります。これがスコープクリープの典型的な入口です。
また、分解前の要望は「認識のズレ」を含んでいることが多いです。顧客が「在庫管理システム」と言っていても、PMが想定している「在庫管理」と顧客が想定している「在庫管理」が異なる場合があります。分解することで、この認識のズレを見積もり前に確認できます。
分解1:目的
「顧客がこの機能・システムを作りたい理由は何か」を確認します。
目的が分かると、何をどの水準で作るべきかが見えてきます。「業務効率化のために帳票を自動化したい」という目的なら、帳票の精度よりも処理速度が重要かもしれない。「顧客への報告用に使いたい」なら、見た目の品質が重要かもしれない。
「何のために使いますか?」「これがあると何が解決しますか?」という問いかけで確認できます。
分解2:対象範囲
「この要望でどこからどこまでが対象か」を確認します。
「在庫管理システム」なら、「入庫・出庫・在庫照会・棚卸しのうち、どの機能が対象か」「既存システムとの連携は含むか」「スマホ対応は必要か」などが対象範囲に関わります。
対象外の明示は、後の「それも含まれると思っていた」を防ぐ最も手軽な方法です。「〇〇は含まない」という確認を一言入れておくだけで、検収時の余分な交渉を避けられます。
分解3:成果物
「この依頼で最終的に何を納品するか」を確認します。
「システム」と一言で言っても、ソースコード・ドキュメント・テスト結果・操作マニュアルなど、含まれるものは様々です。特に受託開発では、「動くもの」だけでなく「引き渡すもの」の全体を確認します。
成果物の一覧を確認しておくと、見積もりが網羅的になります。
分解4:制約
この依頼を進める上での制約を確認します。
主に次の3つを確認します。
- 期限:「いつまでに必要か」。急ぎのものは通常よりコストがかかる場合があります。
- 予算:「予算感はありますか」。予算上限が分かると見積もりの方向性が変わります。
- 技術的制約:「使用しているシステム・言語・インフラに指定はあるか」。
制約を先に確認しておくと、「この予算ではここまでしかできません」という提案も可能になります。
分解5:未確認事項
分解した後に残る「まだ分からないこと」を確認します。
「設計を始めるために確認が必要な情報」「顧客に判断してもらう必要がある選択肢」「外部システムから取得が必要な情報」などが、未確認事項として残ります。
未確認事項が多ければ、「この状態では見積もれません、まず〇〇を確認させてください」と正直に伝えます。見積もれない理由を明確にすることで、顧客も「何を決めれば見積もりが出るか」が分かります。
見積依頼に渡す形
分解した内容を担当者に渡すとき、次の形式で伝えると伝達漏れが減ります。
- 目的:〇〇(一文で)
- 対象機能:A・B・C(対象外はD・E)
- 成果物:〇〇・〇〇(一覧)
- 制約:期限〇月〇日、予算〇〇万円目安、使用言語〇〇
- 未確認事項:〇〇は確認中
この形式で渡せば、担当者は「どこまで見積もればよいか」が分かった状態で作業に入れます。
まとめ
顧客要望を分解してから見積もりを依頼することで、後のスコープ変更・追加依頼・認識ズレを減らせます。
「目的・対象範囲・成果物・制約・未確認事項」の5点を整理するのに、大きな時間はかかりません。30分の確認会話ができれば十分です。
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