同じ案件の進捗を、経営会議向けに3行、部長会議向けに半ページ、現場朝会向けに口頭の箇条書き——PMは1週間に何回も「同じ内容の粒度違い」を書き直しています。情報が増えるからではなく、相手によって伝える深さと文脈が違うからです。
「AIで書き直させればいい」と聞きますが、そのまま依頼すると粒度がぶれ、伝わるものが伝わらなくなります。本当に効くのは、Skillで「経営/部門/現場」の3粒度テンプレを固定し、1ファクトから3粒度を一括生成する運用です。
この記事では、Claude Codeでレポート粒度変換を半自動化する実装を、現場で動かせる粒度で解説します。
なぜ「粒度違い」は時間を食うのか
同じ事象を3回書き直すのが時間を食うのは、再現性の問題です。
- 粒度の判断軸がぶれる:経営向けは「投資判断材料」、部門向けは「リソース配分」、現場向けは「明日のアクション」と相手のニーズが違う
- テンプレが個人依存:PMごとに章立てが違い、読み手が学習コストを払う
- 過去報告との整合が取れない:「先週はこう書いたが今週はこう」とトーンがブレる
Claude Codeは、Skillで3粒度のテンプレを固定し、1ファクトから3粒度を一括生成する運用を素直に組めます。
Claude Codeを「粒度変換器」にする全体像
必要な要素は次の3つです。
- ファクトYAML:今週の事実情報(数値・出来事・判断)を構造化
- 粒度変換Skill:3粒度テンプレに従って自動生成、PMが手で校正
- CLAUDE.md粒度ルール:経営/部門/現場それぞれのテンプレと禁則事項を明記
これが揃えば、PMはファクトYAMLを書くだけで、3粒度の報告ドラフトが一括で揃います。
ステップ1:ファクトYAMLを設計する
tmp/reports/{YYYY-MM-DD}-facts.yaml のように週次ファクトを構造化します。
project_id: "PROJ-2026-A"
week_of: "2026-04-27"
progress:
spi: 0.92
cpi: 0.95
phase_completion:
requirements: 1.0
basic_design: 0.85
implementation: 0.30
events:
- type: "decision"
summary: "認証方式をSAMLからOIDCへ変更"
impact: "実装工数+10pd、外部APIコスト年額+200万"
- type: "incident"
summary: "ステージング環境で結合テスト中にDB接続エラー"
impact: "テスト3日遅延"
- type: "milestone"
summary: "基本設計レビュー完了"
risks:
- id: R-007
update: "他システム連携の不整合リスクが顕在化"
next_week_focus:
- "認証方式変更に伴う実装着手"
- "結合テスト遅延リカバリ計画策定"
ファクトYAMLは「事実」だけを書く場所。解釈や所感は次のステップで粒度別に作ります。
ステップ2:粒度変換Skillを定義する
.claude/skills/report-translate/SKILL.md を作成します。
---
name: report-translate
description: tmp/reports/{date}-facts.yaml を読み、CLAUDE.mdの3粒度テンプレに従って tmp/reports/{date}-{audience}.md を一括生成する(audience: exec / division / team)
disable-model-invocation: true
allowed-tools: Read, Write
---
# レポート粒度変換Skill
## 入力
- `tmp/reports/{YYYY-MM-DD}-facts.yaml`
## 処理
1. ファクトYAMLを読み込む
2. 3粒度(exec / division / team)のテンプレに従って3ファイル一括生成
- exec: 経営向け、A4 1/3ページ、投資判断材料に絞る
- division: 部門向け、A4 1ページ、リソース配分材料を含む
- team: 現場向け、口頭読み上げ用、明日のアクションを箇条書き
3. 各粒度で「禁則事項」を反映(CLAUDE.md参照)
4. PMコメント欄は **空欄** で出力
## 出力フォーマット
- exec: `tmp/reports/{date}-exec.md`
- division: `tmp/reports/{date}-division.md`
- team: `tmp/reports/{date}-team.md`
## 厳守
- 数値はファクトYAMLそのままを使い、加工しない
- 解釈・所感はAIが書かず、PMコメント欄を空けて返す
- 過去報告のトーンを引用しない(独立に生成)
「数値を加工しない」が安全装置。AIが勝手に「概ね順調」「やや遅延」と判断すると、経営報告のトーンがPMの意図と乖離します。
ステップ3:CLAUDE.mdに粒度ルールを書く
## レポート粒度変換ルール
### 経営向け(exec)テンプレ
- 投資判断に直結する数値を優先(コスト・スケジュール・主要リスク)
- インシデントは「事業影響」の文脈で説明
- 文章は1段落+箇条書き3〜5行
- 禁則:技術用語、固有名詞の細かい説明、現場の苦労話
### 部門向け(division)テンプレ
- リソース配分判断に必要な情報を含む(要員稼働、他案件影響)
- 章立て:①サマリー ②進捗指標 ③主要イベント ④リスク ⑤次週の重点
- 文章は段落構成、A4 1ページ
- 禁則:経営判断に関わる戦略示唆(部長権限を超える内容は書かない)
### 現場向け(team)テンプレ
- 明日のアクションが見える形式
- 章立て:①今週のハイライト ②明日からのToDo ③相談したいこと
- 口頭読み上げ前提のため、句点で短く区切る
- 禁則:抽象的な経営トーン(「順調に推移」など現場で意味のない表現)
### 共通の運用
- 解釈・所感はPMが手で書く
- 数値は必ずファクトYAMLそのまま
- レポート間で同じ事実を矛盾なく語る(粒度変換は内容変更ではない)
「禁則事項」を粒度ごとに明記するのが運用の核心。AIが書きがちな「無難な経営トーン」を現場用に持ち込むと、現場の信頼を失います。
ステップ4:実際の運用フロー
毎週金曜の運用は次の通りです。
- 金曜午前:PMが
tmp/reports/{date}-facts.yamlにファクトを書く(30分) - 金曜午後:
/report-translateで3粒度ドラフトが一括生成される - 金曜夕方:3粒度それぞれのPMコメント欄を埋める(15分×3=45分)
- 月曜朝:経営向けは月曜午前のステアリングに、部門向けは月曜午後の部長会議に、現場向けは月曜朝会で読み上げ
合計で2時間弱。これまで4〜5時間使っていたPMには、月曜の朝会前に余裕が生まれます。
期待効果と運用上の注意点
導入チームから報告される効果は3点です。
- 粒度違いの書き直し時間が4時間→2時間:ファクトを1度書けば3粒度が揃う
- 報告のトーンが安定する:テンプレが固定され、読み手が学習コストを払わなくて済む
- 粒度間の矛盾が起きにくい:同じファクトを参照するため、内容のブレが消える
落とし穴は3つ。
- 解釈・所感をAIに書かせない:これを許すと経営トーンが薄まる
- テンプレを頻繁に変えない:四半期ごとの見直しに留める
- ファクトYAMLの精度に投資する:ここがブレると3粒度すべてがブレる
まとめ
- レポート粒度変換は3粒度のニーズを分離することで再現可能化できる
- ファクトYAMLを単一ソースにし、Skillで3粒度を一括生成する仕組みが現実解
- 解釈・所感は粒度別にPMが書く(AIに任せない)
- 「禁則事項」を粒度ごとに明記すると、報告のトーンが守られる
ここまでで「動く粒度変換器」は手に入ります。実務でこれを“信頼される報告運用”に育てるには、報告戦略、ステークホルダー別のメッセージング、定型化と例外運用の使い分けといった上位設計が必要です。
AIX-101『仕様書・報告書・議事録』 と MGR-101『PMのリーダーシップ』 を組み合わせると、本記事のSkillをベースに、報告書設計とリーダーとしての伝え方を体系で学べます。「同じ内容を粒度違いで何度も書き直す」PMが、最短で“仕組みで伝える運用”に到達するための導線です。