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社長がPMを兼務している会社で起きる5つの限界

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社長がPMを兼務している会社で起きる5つの限界

「案件が増えてきたが、自分がPMを続けている。まだ回せている。」

多くのIT受託会社の社長やCTOは、こう感じながら日々を過ごしています。しかし「まだ回せている」という感覚は、構造的な限界が近づいているサインである場合がほとんどです。

本記事では、社長・CTOがPMを兼務し続ける状態が組織にもたらす5つの限界を整理します。これは個人の努力や能力の問題ではありません。PM機能が組織として機能していないという構造的な問題なのです。

なぜ「兼務」が問題なのか

社長がPMを兼務する状態は、会社の立ち上げ期には自然な姿です。人が少なく、案件数も限られているうちは、社長がPMを担うことが合理的であり、むしろ必要なことでもあります。

問題が起きるのは、その状態を「維持し続けた場合」です。案件が増えても、組織が拡大しても、変わらず社長がPMとして現場に入り続けるとき、会社は成長と機能不全の分岐点に立っています。

頑張れば回る状態と、構造として回せる状態はまったく違います。前者は社長の健康と時間に依存しており、後者は組織として機能するPM体制に依存しています。この違いが、具体的に5つの限界を生み出します。

限界1:意思決定が渋滞する

社長がPMを兼務していると、案件のあらゆる判断が一人に集中します。仕様変更の承認、顧客への回答、納期交渉、追加見積の判断。これらすべてが社長の判断を必要とするため、社長が経営会議や採用面接、新規営業といった他の用件で動けない時間に案件が止まります。

10件の案件を抱える段階になると、毎朝30分ずつ各案件の確認に使うだけで丸半日が消えます。意思決定スピードが組織全体のボトルネックになり、顧客への返答が遅れることで信頼が損なわれ始めます。

限界2:PM候補の成長機会が失われる

「PM候補はいるが、任せると心配で自分が介入してしまう」という状態は、候補者の成長機会を構造的に奪っています。

社長がPMを続ける限り、部下はサポート役に留まります。仕様確認のための顧客連絡、資料作成、議事録取り。これらは大切な業務ですが、「判断する経験」とは別物です。炎上しかけたプロジェクトをどう立て直すか、顧客の無理な要求にどう対処するか、そういった実地の判断経験が積めないまま年数だけが過ぎていきます。

3年・5年と在籍しながら「PM業務を任せられない人材」が増え、社長の兼務依存がより深まるという悪循環に入ります。

限界3:案件情報が社長の頭にしか存在しない

社長がPMを担う案件では、顧客との関係性・交渉経緯・技術的な判断理由・リスクの所在が、すべて社長の記憶に格納されます。これは情報管理の観点から見ると、極めて脆弱な状態です。

社長が急病・出張・大型商談で不在になった瞬間、他のメンバーは「何が問題なのか」「何を顧客に伝えていいのか」がわからなくなります。ドキュメント化される機会がないため、案件終了後にも知見が蓄積されません。同じ種類のミスが別の案件でも繰り返される遠因になります。

限界4:育成サイクルが生まれない

「自分が動けば回る」状態にある限り、育成に時間を使う動機が生まれません。これは意識の問題というより、構造的な問題なのです。

育成とは、短期的には生産性を下げる投資です。候補者に任せると、社長が自分でやるより時間がかかり、品質にも不安が残ります。日々の案件消化に追われている社長が、この「短期コスト」を払う余裕を作れないのは当然といえます。

育成の優先度は常に下がり続けます。「落ち着いたら育成しよう」という先送りが毎年繰り返され、組織全体のPM能力が一向に上がらない状態が続きます。

限界5:経営判断の鳥瞰視点を失う

これが最も見えにくく、しかし最も深刻な限界です。

社長がPMとして現場に入り込むほど、経営者としての「距離感」を失います。個別案件の細部に注意が向くほど、「会社全体の案件ポートフォリオ」「どの顧客・案件に優先投資するか」「次の事業展開」といった経営判断が後回しになります。

現場から少し離れた位置から全体を見る視点がなければ、「忙しいが、方向性は正しいのか」という問いを立てる機会が生まれません。成長のための戦略的判断よりも、目前の案件消化が優先され続ける状態は、会社の長期的な競争力を徐々に削ぎます。

「忙しくて育成できない」は構造の問題

ここまでの5つの限界を見ると、問題の本質が見えてきます。社長がPMを兼務し続ける状態は、個人の努力では解決できない構造的な問題です。

社長が「もっと頑張る」ことで一時的に案件をさばけても、5つの限界は解消されません。必要なのは、PM機能を組織として分離・育成するための設計です。

参考記事:新任マネージャーの講座選び|着任直後・評価面談前・運用フェーズで使い分ける

PM機能の組織化には、PMが担う業務の標準化、判断基準の言語化、そして候補者に任せながら育てるためのレビュー設計が必要です。これらは一朝一夕では完成しませんが、最初の一歩として「社長がどのPM業務から手を放せるか」を棚卸しするところから始めることができます。

炎上した案件の対応に追われている組織では、育成より鎮火が優先されることも少なくありません。炎上が繰り返される会社の構造的な問題については炎上案件を引き継いだ初日からの30日|止血・再見積・撤退判断の実例でも詳しく解説しています。

まとめ

社長がPMを兼務している状態がもたらす5つの限界をまとめます。

  1. 意思決定の渋滞:すべての判断が社長に集中し、案件が止まります。
  2. PM候補の成長機会の喪失:サポート役に固定され、判断経験が積めません。
  3. 案件情報の属人化:社長不在時に案件が停止・混乱するリスクを抱えます。
  4. 育成サイクルの停滞:日々の案件消化が優先され、育成への投資が先送りされ続けます。
  5. 経営判断の視点の欠如:現場への没入が、経営者としての機能を低下させます。

これらは社長の能力や努力の問題ではありません。PM機能が組織として存在しないという構造的な問題なのです。


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