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新任管理職が最初の90日で見るべき3つの数字|稼働・品質・離職予兆

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新任管理職が最初の90日で見るべき3つの数字|稼働・品質・離職予兆

「メンバーは頑張っている。でも、何かおかしい」と感じたとき

昇格して数週間が経ち、ようやく定例の進め方や案件の状況がつかめてきた頃。
ふと、こんな違和感に気づくことがあります。

  • メンバーは口々に「順調です」と言う。でも、なぜか案件は遅れ気味になる
  • 1on1では特に問題は出てこない。それなのに、急にエース級の若手から退職の相談が来る
  • 評価のシーズンになると、誰のどこを評価していいか、結局「頑張っていたかどうか」しか言えない

これは新任管理職に共通する典型的なつまずきです。原因の多くは、能力でも人柄でもなく、「何を根拠に組織の状態を判断しているか」が曖昧なまま動いてしまっていることにあります。

雰囲気と善意でマネジメントしようとすると、どこかで必ず限界が来ます。とくにIT受託のように、案件・スキル・季節要因が複雑に絡む現場では、感覚だけで読み切るのはほぼ不可能です。

本記事では、新任管理職が最初の90日で必ず押さえておきたい3つの数字を整理します。読み終えるころには、「来週の1on1で何を聞くか」「来月の定例で何を確認するか」が、感覚ではなく定量を起点に決められるようになります。

なぜ「3つの数字」に絞るのか

世の中には、管理職が見るべき指標を網羅的にまとめた資料が無数にあります。読んでみると、稼働率、生産性、エンゲージメント、ROI、定着率、ESスコア……と並び、最初の90日でこれを全部追うのは現実的ではありません。

新任管理職が陥りがちなのは、次のどちらかです。

  • 指標を追わない:忙しさに紛れて「肌感覚」だけで判断する
  • 指標を追いすぎる:ダッシュボードを作り込み、数字を眺めるのが目的化する

どちらも、最初の90日で意思決定の質を上げるという本来の目的からは外れます。立ち上がり期に必要なのは、数を絞り、毎週・毎月決まったリズムで見続けられる仕組みです。

そこで、テックエイドが新任管理職向けに推奨しているのが、次の3つの数字です。

  1. 稼働配分:メンバーが「何に」時間を使っているか
  2. 品質傾向:不具合が「どこで」「どう」発生しているか
  3. 離職予兆:辞める前に出やすいサインがいくつ揃っているか

それぞれ別の問いに答える指標で、互いに代替できません。1つだけ追うと必ず読み違えます。逆に、この3つだけでも、組織の状態はかなり読み取りやすくなります。

数字① 稼働配分:「忙しい」の中身を分ける

最初の数字は稼働配分です。よく似た言葉に「稼働率」がありますが、これは「忙しいかどうか」を見るには便利でも、改善の打ち手につながりにくい指標です。

新任管理職が見るべきは、100%の稼働を、何にどう配分しているかのほうです。

見るべき4つのカテゴリ

最低限、稼働は次の4つに分けて把握しておきます。

  • 受注案件作業:請求の根拠になる、顧客向けの作業
  • 社内の準備・改善:見積、提案、技術検証、ドキュメント整備など
  • トラブル・手戻り対応:障害対応、出戻り、顧客クレーム対応
  • 管理・会議・教育:定例、1on1、レビュー、新人指導

たとえばメンバーAさんが「忙しい」と言っているとき、その中身が「受注作業 70%、トラブル対応 25%、管理 5%」なのか、「受注作業 40%、トラブル対応 50%、管理 10%」なのかでは、打ち手はまったく異なります。前者は受注規模に対して妥当な負荷かもしれません。後者は明らかに何かの異常が起きていて、受注作業の品質や納期にしわ寄せが出るのは時間の問題です。

取得方法は「完璧」を目指さない

立ち上がり期にありがちな失敗は、稼働を1日単位・タスク単位で細かく取らせようとして、結局誰も入力しなくなることです。

最初の90日では、次の粒度で十分に意思決定に使えます。

  • 単位は「週」または「半月」
  • カテゴリは前述の4つ程度
  • 入力はメンバー自己申告。10分以内で済む形式
  • ピッタリ100%にこだわらず、「だいたいの感覚」を可視化することを優先する

そのうえで、月1回、配分を眺める時間をカレンダーに入れておきます。トラブル対応が連続して20%を超えているメンバーがいれば、それは個人の頑張りで吸収させるべきものではなく、案件設計か体制設計の問題として手を打つ対象です。

数字に表せる状態にしておくと、自分の上司や経営層にも「このチームは今、トラブル対応に◯%吸われていて、本来やるべき◯◯が止まっています」と説明できます。雰囲気で「うちのチームは大変で……」と言うのとでは、伝わり方も意思決定の速度も変わってきます。

数字② 品質傾向:「件数」より「流れ」を見る

2つ目は品質傾向です。多くの新任管理職は、品質を「不具合件数」で見ようとしますが、件数だけでは判断を誤ります。

  • 件数が少ないからといって品質が良いとは限りません。テストが甘いだけという可能性もあります。
  • 逆に件数が多くても品質が悪いとは断定できません。テストが機能している証拠かもしれません。

管理職に必要なのは、不具合を流れとして見る視点です。

最低限見るべき3つの動き

新任の段階では、次の3つだけ追いかけておけば、品質の傾向はかなり読めます。

  1. 発生時期の偏り:要件・設計・実装・テスト・受入れのどの工程で出ているか
  2. 検出経路:自社のテストで見つかったのか、顧客側の確認で見つかったのか
  3. 再発・類似:同じメンバー・同じ機能・同じ工程で繰り返し起きていないか

たとえば、件数自体はそれほど多くなくても、「検出経路がほぼ顧客側」「同じメンバーで再発が続いている」という状態なら、品質体制そのものに穴があり、放置すれば必ず大きな顧客トラブルにつながります。

逆に、件数が多くても「自社テストで早期に検出」「再発はほぼない」となっていれば、テスト設計が機能している健全なサインです。新任管理職が「件数が多い=悪」と短絡してテスト工数を削ると、品質は確実に悪化します。

不具合を3軸で読む具体的な進め方は、バグ票を改善につなげる|不具合傾向の3軸読みで品質を立て直すPM実務で詳しく扱っています。チームに品質会議を立ち上げる際の参考になるはずです。

数字を「人を裁く道具」にしない

品質傾向の数字を見るときに、最も注意したいのは「誰のせいか」を追う方向に使わないことです。

新任管理職は、現場での厳しさを見せるため、つい個人を名指しして指導しようとしがちです。しかし、品質指標を「個人責任を問う場」で使うと、その瞬間にメンバーは数字を出なくなります。報告から「都合の悪い不具合」が消え、ダッシュボードはきれいなまま、本当の問題は見えないところで進行します。

数字は「誰を責めるか」を決めるためではなく、「どの工程・どの仕組みを直すか」を決めるための道具です。これは新任管理職が90日で身につけるべき、もっとも大事な感覚のひとつです。

数字③ 離職予兆:1on1だけでは間に合わない

3つ目が離職予兆です。これは新任管理職にとって、最も見落としやすく、見落とすと取り返しがつかない数字です。

「うちは1on1をちゃんとやっているから大丈夫」と思っているチームほど、実は危険です。1on1で本音を引き出せるのは、それなりに信頼関係が積み上がった後の話で、新任の管理職にいきなりすべてを話してくれるメンバーはほとんどいません。

言葉ではなく、行動の変化を見る

離職予兆として、次のような行動の変化を観測ポイントにします。

  • 稼働の質の変化:残業が急に減った、あるいは逆に急増した
  • 発言量の減少:定例での発言、Slackでの反応、レビューコメントが減ってきた
  • 勉強会・社内活動からの離脱:これまで参加していた活動から距離を置き始めた
  • 休暇の取り方の変化:有給の取り方、特に金曜・月曜の休みが増える
  • アサイン希望への無関心:以前はキャリアや希望案件を語っていたのに、最近何も言わなくなった

1つのサインが出たからといって、すぐに離職につながるわけではありません。重要なのは、複数のサインが1人に同時に出始めたタイミングを見逃さないことです。

実務上は、メンバー一人ひとりについて「該当しそうな兆候の数」を、月に一度だけでも数えてみるのがおすすめです。3つ以上が同時に出ていれば、警戒水準として扱います。

新任管理職向けの1on1や評価面談の基本の型については、IT受託のマネージャーが最初につまずく評価面談と1on1|新任管理職が押さえる基本の型で詳しく整理しています。あわせて読むと、サインを観測した後に「どう聞き出すか」までつながります。

「言ってくれればよかったのに」をなくす

離職の相談を受けた管理職が、よく口にする言葉があります。「もっと早く言ってくれればよかったのに」。

しかしメンバーから見ると、自分なりにサインを出していたケースがほとんどです。残業が減ったのも、発言が減ったのも、すべてサインだったのに気づかれなかった、と感じている。最後の1on1で「実は転職活動を始めていて……」と切り出したのは、決して「突然」ではないわけです。

離職予兆を数字として持っておくのは、メンバーを縛るためではありません。こちらから先に気づく責任を果たすための仕組みなのです。新任の段階でこの感覚を持てるかどうかは、長期的にチームの定着率を大きく左右します。

90日で運用に乗せる進め方

3つの数字をただ知っているだけでは、組織は変わりません。最初の90日で、自分の管理リズムに組み込めるかが勝負です。

おすすめの進め方は次のとおりです。

  • 1〜30日目:観測の枠を作る
    既存のExcelやスプレッドシートを使い、稼働配分・品質傾向・離職予兆をそれぞれ1シートで管理できる形を用意する。完璧を目指さず、まずは入力の習慣を作ることに集中する。
  • 31〜60日目:1on1とつなぐ
    数字を見て気になったメンバーに対して、1on1の中で「こういう傾向に見えているけど、実際どう?」と聞いてみる。数字を起点に対話を始めると、個人攻撃にならず、客観的に話しやすくなる。
  • 61〜90日目:上位レイヤーに共有する
    自分の上司・経営層に、月次で数字ベースの状況報告を始める。雰囲気の報告から定量の報告に切り替わるだけで、新任管理職としての信頼度は一段上がる。

このリズムは、案件の進捗管理にも通じる発想です。月次で数字を起点に判断軸を組み立てる進め方は、月次30分でやる案件コスト統制|予実差から打ち手を決める3つの判断軸でも紹介しています。

よくある失敗とその回避

新任管理職が3つの数字を扱うときに、特に気をつけたい失敗パターンを挙げておきます。

  • 指標を急に増やす:90日の途中で「もっと見たい」と思っても、まずは3つを安定させる。指標を増やすほど、運用は確実に止まる
  • 数字だけで判断する:数字はあくまで「気づきのきっかけ」であり、それ自体が結論ではありません。必ず1on1や現場ヒアリングと組み合わせる
  • メンバーに見せない:管理職だけが数字を持ち、メンバーには結果だけ伝える運用は不信感を生む。原則として、自分のチームの稼働配分や品質傾向はメンバーにも開示する
  • 悪い数字が出たら隠す:上位レイヤーに対して、トラブル対応比率や品質傾向の悪化を隠してしまうと、後で必ず大きな問題として返ってくる

これらは、新任時にやりがちで、後から修正するのが非常に難しいクセです。最初の90日で、数字との健全な付き合い方を身につけておくと、その後のキャリアでずっと使える基礎になります。

まとめ:3つの数字を、判断の言語にする

新任管理職に求められるのは、頑張りを評価することよりも、判断の質を上げることです。そのために、最初の90日でやるべきは難しい仕組み作りではなく、たった3つの数字を毎月見続ける習慣を作ることです。

  • 稼働配分で「忙しさの中身」を読む
  • 品質傾向で「品質の流れ」を読む
  • 離職予兆で「行動の変化」を読む

この3つを起点にすれば、1on1も、定例も、評価面談も、すべて「数字をもとにした対話」に切り替えられます。雰囲気と善意のマネジメントから、判断軸のあるマネジメントへ。新任の90日で、その基礎を築いておくことが、半年後・1年後の自分とチームを大きく助けます。

体系的に学びたい方へ

ここで紹介した3つの数字は、新任管理職向け実践講座 【IT受託の新任管理職】プレイヤーからマネージャーへ切り替える実践講座(MGR-101) で扱っている考え方の一部を、最初の90日に絞って整理したものです。

役割の切り替え、委任の境界、着任直後の動き方、判断基準の言語化まで、新任管理職としての立ち上がりを体系的に整えたい方は、講座の活用を検討してみてください。

また、判断そのものの精度を、ケース演習を通じて鍛えたい方には 【プロジェクトマネジメント実務】ケース演習で鍛えるPM判断(PJM-105) もあわせて参考になります。