【事業責任者が語る】営業とエンジニアの対立に終止符を。私が5年悩み抜いて見つけた、たった1つの根本解決策

「顧客はこう言ってるんだ!なぜできない!」
「技術的に無理です。まず仕様を完全に固めてください」

会議室に響く、営業とエンジニアの怒声。
その間で、あなたはただ胃をキリキリさせながら、凍りついた場の空気に耐えている…

この光景に、心当たりはありませんか?

プロジェクトマネージャー、開発リーダー、あるいは中間管理職として、両者の板挟みになり、疲弊しきっている。いつしか役割は「調整役」から「伝書鳩」へ、そして「サンドバッグ」へと成り下がり、ただただ精神を消耗していく。

かつての私が、まさにその調整地獄のど真ん中にいました。

しかし、安心してください。その対立は、あなたのマネジメント能力が低いからでも、誰かの性格が悪いからでもありません。

この記事では、PMとして、そして事業責任者として、この根深い問題を5年以上悩み抜いた私が辿り着いた、唯一の「根本的な解決策」と、明日から現場で実践できる具体的な「処方箋」をお伝えします。

なぜ営業とエンジニアは対立するのか?根本原因は「個人の能力」ではない

多くの人が、この問題を個人のスキルやコミュニケーションの問題だと考えがちです。しかし、それは間違いです。いくらコミュニケーション研修を実施しても、懇親会で結束を高めようとしても、対立がなくならないのは、その原因がもっと根深い「会社の仕組み」にあるからです。

「見る景色」が全く違う両者のKPI

結論から言えば、対立の根本原因は「評価指標(KPI)の断絶」です。

  • 営業が見る景色:
    彼らは「売上」や「契約数」といった、短期的な成果で評価されます。顧客の「欲しい」という熱量を逃さず、今すぐ契約を取ることが至上命題です。そのため、スピードと柔軟性を何よりも重視します。
  • エンジニアが見る景色:
    彼らは「品質」や「システムの安定性」といった、中長期的な価値で評価されます。無計画な仕様変更は、将来の「技術的負債」を生み、システムの寿命を縮めることを知っています。そのため、正確性と計画性を重視します。

お分かりでしょうか。
両者は、会社から「全く別の方向を向け」と指示されているのです。この「時間軸の非対称性」を理解しない限り、どんなコミュニケーション術も焼け石に水。お互いがプロフェッショナルとして自分のKPIを追いかける限り、対立は必然的に生まれる構造になっているのです。

私がプロジェクトを炎上させ、組織を壊した「痛恨の失敗談」

この構造に気づく前、私は数え切れないほどの失敗を犯してきました。理論ではなく、私の血肉となった2つの苦い経験をお話しさせてください。

PM時代:「調整」に奔走し、「伝書鳩」になった私

PMだった頃の私は、両者の言い分をなんとか調整しようと必死でした。営業から言われたことをエンジニアに伝え、エンジニアの懸念を営業に伝える。ただそれだけの「伝書鳩」と化していました。

結果は悲惨でした。営業からは「現場の熱量がわかってない」と突き上げられ、エンジニアからは「仕様も固められないのか」と呆れられる。双方から信頼を失い、プロジェクトは空中分解。私はただ、燃え盛る炎の中心で立ち尽くすことしかできませんでした。

事業責任者時代:売上を優先し、大切な仲間を失った日

事業責任者になり、より大きな視点を持ったはずの私でさえ、同じ過ちを犯しました。四半期の売上目標に追われ、営業チームの「この機能があれば大型契約が取れる」という言葉を優先し、エンジニアチームに無理な短期開発を強いたのです。

結果、システムには多くの負債が残り、疲弊しきった優秀なエンジニアの一人が、静かに会社を去っていきました。あの時の無力感と後悔は、今でも忘れられません。組織の対立は、事業そのものを内側から殺していくのだと、骨身に染みて痛感した瞬間でした。

営業とエンジニアの対立に終止符を打つ、たった1つの根本解決策

これらの痛みを伴う失敗を経て、私がようやく辿り着いた根本的な解決策。
それは、「共通目標(KGI/OKR)による、目的地の統一」です。

部署ごとに設定されたバラバラなKPI(売上、開発タスク完了数など)を追いかけるのをやめ、営業も、エンジニアも、マーケティングも、全員が同じ「事業の成功指標」を追いかける仕組みを作ること。

例えば、「プロダクトの解約率を半年で5%改善する」「顧客LTV(生涯価値)を1年で10%向上させる」といった、事業全体の成功を示す目標(KGIやOKR)です。

これは、別々の山頂を目指している登山パーティーを、無理やり一つのルートで歩かせようとするようなものです。それではうまくいくはずがありません。まず私たちがやるべきことは、全員で「同じ一つの山頂を目指す」と決めることなのです。

目的地が一つになれば、「その山頂に最速でたどり着くにはどうすればいいか?」という建設的な議論が初めて生まれます。営業は「この機能は山頂への近道になる」と提案し、エンジニアは「そのルートは途中で崖崩れの危険があるから、こちらの安全な道を行こう」と返す。対立ではなく、協調が生まれる瞬間です。

理想論で終わらせない。明日からできる3つの「処方箋」

「そんな大きな仕組みの変更は、自分の一存ではできない」

そう思われたかもしれません。もちろんです。だからこそ、あなたが今いる場所から始められる、具体的な3つのアクションプランを「処方箋」としてお渡しします。

処方箋1:「伝書鳩」から「翻訳者」へ進化する

あなたの役割は、言葉を右から左へ流す「伝書鳩」ではありません。両者の言葉の背景にある意図や価値を翻訳し、互いが理解できる言語に変換する「翻訳者」です。

  • 営業の言葉を翻訳する:
    「顧客が怒っている!」→「この機能がないことで、月額50万円の重要顧客が解約するリスクが生まれています」
  • エンジニアの言葉を翻訳する:
    「このリファクタリングが必要です」→「今この修正をすれば、半年後の新機能開発スピードが2倍になり、競合に勝てます

このように、お互いの仕事が「共通の目的地(事業の成功)」にどう繋がるのかを翻訳してあげるだけで、会話の質は劇的に変わります。

処方箋2:互いへのリスペクトを生む「越境会議」を設計する

ただの進捗報告会ではない、「お互いの仕事へのリスペクト」が生まれる場を意図的に設計しましょう。

  • 営業が獲得した顧客からの「生の感謝の声」をエンジニアに共有する。
  • 開発中の新機能を、リリース前に営業チームに触ってもらい、最速のフィードバックをもらう。
  • エンジニアが、営業同行で顧客のリアルな業務課題を直接ヒアリングする。

こうした「越境体験」は、相手が決して「敵」ではなく、同じ山頂を目指す「仲間」であることを実感させてくれます。

処方箋3:部署をまたいだ「小さな成功体験」を称賛し、ヒーローを作る

連携がうまくいった事例を、積極的に見つけ、光を当て、称賛しましょう。

「エンジニアのAさんの技術的提案のおかげで、B社の大型受注に繋がりました!」
「営業のCさんの的確なヒアリングがあったから、開発の手戻りがゼロで済みました!」

このような部署をまたいだ成功事例を、経営陣も巻き込んで全社に共有するのです。連携したメンバーをヒーローにすることで、「協力すれば評価される」というポジティブな文化が組織に根付いていきます。

最後に:これは、私のキャリアが導き出した答えです

なぜ、私がこれほど強く「構造の問題」と「共通目標」の重要性を語れるのか。

それは、私自身が製造業の現場で部署間の分厚い壁を嫌というほど見てきた後、ITエンジニアとしてコードを書き、PMとして板挟みの地獄を味わい、そして事業責任者として組織全体の痛みと向き合ってきたからです。

この記事でお伝えしたことは、どこかの本に書いてあった理論ではありません。
数々の失敗と、仲間を失った後悔の末に、私のキャリアそのものが導き出した、泥臭い実践の答えなのです。

営業とエンジニアの対立は、決してなくならないものではありません。
この記事が、あなたが調整地獄から抜け出し、チームを一つの目的地へと導く、その第一歩となることを心から願っています。

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