【実録】私がプロジェクトを大炎上させた話。失敗の解剖学から学ぶ、確実に避けるべき3つの根本原因

「もう限界です」

深夜のオフィスに、エースエンジニアから突きつけられた無慈悲なチャット。それが、私が担当した数十人月規模のプロジェクトが、完全に”死んだ”瞬間でした。

画面に表示された短いテキストが、頭の中で何度も何度も反響します。
積み上がったタスク、鳴り止まない関係者からの催促、そして、疲弊しきったメンバーの顔…。走馬灯のように駆け巡る光景の果てに、私に残されたのは圧倒的な無力感だけでした。

もしあなたが今、終わりの見えないプロジェクトで疲弊していたり、過去のプロジェクト失敗の経験がトラウマになっていたりするなら、この記事はあなたのために書きました。

これは、輝かしい成功譚ではありません。
理論武装された机上の空論でもありません。

これは、かつて私が現場で犯した、生々しい失敗の記録です。
そして、その地獄の底から這い上がる過程で掴み取った、実践的な教訓の物語です。

この大炎上という壮絶な失敗があったからこそ、今の私があります。

さあ、私の失敗の解剖学を始めましょう。
あなたが同じ轍を踏まないために、確実に避けるべき3つの根本原因を、私の心の傷と共にここに開示します。

根本原因1:『良き人』でいようとした結果のコミュニケーション不全

最初の、そして最大の過ちは、私が関係者全員にとって「良き人」でいようとしたことでした。

当時の私は、上司の期待にも、顧客の要望にも、そしてチームメンバーの想いにも、すべて100%で応えようと必死でした。

「期待を超えるのがプロのPMだ」
そう信じて疑いませんでした。

上司から「この厳しい納期、君なら何とかできるだろう?」と期待をかけられれば、「お任せください」と胸を張りました。
顧客から「ついでにこの機能も追加できないかな?」と無茶な要望を言われれば、「私が何とかします」と安請け合いしました。

その結果、どうなったか。
現場のエンジニアたちに、日に日に増えていく無理難題を「申し訳ない、何とかお願いできないか…」と頭を下げて押し付ける日々。彼らの顔から笑顔が消え、オフィスの空気が鉛のように重くなっていくのを、私は肌で感じていました。

まさに「調整地獄」と「上司と部下の板挟み」の典型です。

すべてのステークホルダーにいい顔をした結果、私が作り出したのは、誰も幸せにならない「期待値のインフレーション」でした。終わらない仕様変更、膨れ上がる工数、そして崩壊していく信頼関係…。

プロジェクト失敗の本質は、スキル不足ではなく、この「嫌われたくない」「期待に応えたい」という歪んだマインドセットにあったのです。

後にPMから事業責任者となり、さらに究極の板挟みを経験する中で、私は学びました。
プロジェクトマネージャーの本当の仕事は、「良き人」であることではなく、時に嫌われる勇気を持って、現実的な着地点へと全関係者を導く「冷徹な交渉人」であることなのだと。

根本原因2:『知ったかぶり』が招いた技術的負債の爆発

私はもともと、大手鉄鋼メーカーの製造現場でキャリアをスタートさせました。そこからITエンジニアへと転身した経歴は、私の強みであると同時に、深いコンプレックスの源泉でもありました。

特にPMになった当初、この「非エンジニア出身」というコンプレックスが、プロジェクトに致命的な傷を与えました。

エンジニアたちが交わす技術的な議論。飛び交う専門用語。
正直、半分も理解できていませんでした。

しかし、私は「マネージャーが技術を分かっていないと舐められる」という恐怖心から、分かったふりをしてしまったのです。

「このアーキテクチャでパフォーマンスは大丈夫ですか?」
「…ええ、問題ないでしょう」

「このライブラリの潜在的なリスクは?」
「…はい、想定内です。大丈夫です」

心臓が早鐘を打ち、冷や汗が背中を伝うのを感じながら、私は虚勢を張り続けました。
その結果が、初期段階で見積もった工数が全くの的外れとなり、後工程で致命的な手戻りの連鎖を引き起こすという最悪の事態です。

見栄を張って放置した小さな技術的リスクは、時間と共に雪だるま式に膨れ上がり、プロジェクト終盤で「技術的負債」として大爆発しました。
私の『知ったかぶり』が、チームが必死に積み上げてきたものを、根底から破壊してしまったのです。

もしあなたが非エンジニアでPMを目指している、あるいは技術コンプレックスを抱えているなら、これだけは覚えておいてください。

プロジェクト失敗を招くのは、技術が分からないこと自体ではありません。
分からないことを「分からない」と言えず、リスクを放置してしまうその姿勢こそが、真の敵なのです。

根本原因3:『孤独なヒーロー』を演じた結果のチーム崩壊

プロジェクトが炎上し始めると、私は典型的な過ちを犯しました。
「この問題は自分にしか解決できない」と思い込み、すべての課題を一人で抱え込み始めたのです。

顧客からのクレーム対応、上司への進捗報告、山積する課題のボール拾い…。
私はチームを守るためだと信じ、一人で矢面に立ち続けました。

しかし、それは自己満足の「孤独なヒーローごっこ」に過ぎませんでした。

私はメンバーを信頼できなくなり、彼らからの進捗報告を疑い、マイクロマネジメントに走りました。
「あの件、どうなってる?」
「ソースコードを見せてくれ」
私の過干渉は、チームの士気を奪い、心理的安全性を破壊し、誰も自発的に動かない「指示待ち集団」を作り上げてしまいました。

権限移譲に失敗し、チームビルディングを怠ったPMの末路です。

そして、ついに私の心身が限界を迎え、燃え尽きて倒れた時、プロジェクトも完全に破綻しました。
スーパーマンなど存在しない。PMは、チームというオーケストラを率いる指揮者であって、一人ですべての楽器を演奏する超人ではないのです。

チームを信頼し、適切に助けを求め、メンバーが自律的に動ける環境を作ること。
それこそが、PMに課せられた最も重要な責務であると、すべてを失ってから、私はようやく理解しました。

失敗はキャリアの終わりではなく、最高の教科書である

ここまで、私の無様で、痛々しい失敗談をお話ししてきました。
この大炎上プロジェクトは、私のキャリアにおける最大の汚点であり、同時に、最高の転機でした。

この経験があったからこそ、
「良き人」ではなく「交渉人」であれ、と学べました。
「知ったかぶり」を捨て、謙虚に教えを乞う勇気を持ちました。
「孤独なヒーロー」を辞め、チームを信頼する覚悟を決めました。

この失敗の解剖学こそが、今の私の原点であり、血肉となっています。

もしあなたが今、この記事を読んで、胸が締め付けられるような痛みを感じているなら。
もしあなたが、過去のプロジェクト失敗の記憶に苛まれているなら。

それは、あなたが真剣に仕事に向き合い、もがき、成長しようとしている何よりの証拠です。
その痛みは、決して無駄にはなりません。

失敗はキャリアの終わりではありません。
それは、あなたを唯一無二の、より優れた実践家へと育て上げる、最高の教科書なのです。

だから、どうか一人で抱え込まないでください。
あなたのその痛み、私には痛いほど分かりますから。

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