AIをベテランPMに変えるWBS作成のプロンプト術

目次

はじめに

「プロジェクトマネージャーに任命された!…で、まず何から手をつければいいんだ?」

新しくPMになったあなたが、まず直面するのが「WBS(Work Breakdown Structure)」の作成ではないでしょうか。プロジェクトの全体像を把握し、タスクを洗い出し、スケジュールを引くための設計図。その重要性は理解していても、真っ白なExcelを前に途方に暮れてしまう。

私もそうでした。初めてPMを任された時、関係者へのヒアリングに奔走し、深夜までExcelと睨めっこ。それでも「これで本当にタスクの抜け漏れはないだろうか…」という不安が常に付きまとっていました。

最近では、ChatGPTのような生成AIに「WBSを作って」とお願いする人も増えたかもしれません。しかし、返ってくるのはどこかで見たような一般的で大雑把なタスクリストばかり。「結局、自分で考え直すしかないか…」と、ため息をついた経験はありませんか?

この記事は、そんな過去の私、そして現在のあなたのために書きました。小難しい理論は一切ありません。私が数々の修羅場を乗り越えてたどり着いた、AIを「単なるおもちゃ」から「超優秀なシニアコンサルタント」に変えるための、極めて実践的なプロンプトとその設計思想を、余すところなくお伝えします。

典型的な失敗例

まず、多くの人がやりがちな「失敗するプロンプト」を見てみましょう。おそらく、あなたも似たような聞き方をしたことがあるのではないでしょうか。

CRM導入プロジェクトでやることのリストを作ってください。

プロジェクト名はNextGen CRM導入プロジェクトです。
目的は、営業の業務効率を上げることです。今のExcelでの顧客管理をやめたいと思っています。
期間はだいたい半年くらいです。
使うツールはSalesForceの予定です。
顧客データがExcelで1万件くらいあって、これも新しいシステムに入れないといけません。

どんなタスクがあるか、わかる範囲でいいので箇条書きで教えてください。

どうでしょう? 人間のアシスタントにお願いするなら、これでも意図は通じるかもしれません。しかし、AIに対してこの指示を出すと、残念ながら期待する結果は得られません。

返ってくるのは、せいぜい「1.計画」「2.要件定義」「3.設計」「4.開発」といった、教科書に載っているような項目だけ。具体的でも網羅的でもなく、結局、あなたが深夜までかけてタスクを細分化する作業からは解放されないのです。

「AIって、この程度か…」そう結論づける前に、なぜこのプロンプトが失敗するのか、その原因を深掘りしてみましょう。

なぜ失敗するのか

先ほどのプロンプトが機能しない理由は、一言で言えば「AIに対する敬意と配慮の欠如」です。私たちは無意識のうちにAIを「何でも知っている魔法の箱」のように扱い、人間相手なら当然行うはずの丁寧な情報提供を怠ってしまっているのです。

具体的には、以下の致命的な欠陥があります。

  1. 役割を与えていない: AIに「誰として」答えてほしいかを伝えていません。その結果、AIは「汎用的なアシスタント」として、当たり障りのない一般論しか回答できないのです。
  2. 背景を共有していない: あなたが「なぜ」このWBSを必要としているのか、どんな状況で困っているのかを伝えていません。目的が共有されていないため、AIはあなたの真の課題解決に貢献できません。
  3. 情報が構造化されていない: プロジェクトの情報を思いつくままに書き連ねているため、AIはどこが重要で、何を前提とすべきかを正確に理解できません。
  4. 出力形式が曖昧: 「箇条書きで」という指示だけでは、タスクの粒度や階層構造が指定されておらず、AIはどんな形式で返せばあなたが満足するのか分かりません。
  5. 期待値を下げている: 「わかる範囲でいいので」という一文は、AIに「品質は低くても構いませんよ」という誤ったメッセージを送ってしまい、自らアウトプットの質を下げてしまっています。

要するに、私たちはAIに「丸投げ」してしまっているのです。これでは、どんなに優秀なAIでも、あなたの右腕として機能することはできません。

解決策

では、どうすればAIを覚醒させ、あなたのプロジェクトを成功に導くパートナーに変えることができるのか。

答えはシンプルです。AIを「経験豊富なベテランPM」として扱い、敬意をもって、明確かつ構造化された指示を与えること。

これからお見せするのは、私が実際にプロジェクトで使っているWBS作成プロンプトのテンプレートです。先ほどの失敗例と何が違うのか、その違いを意識しながら読み進めてみてください。そして、ぜひあなたの次のプロジェクトでコピー&ペーストして使ってみてください。

あなたは、入力情報として与えられたプロジェクトの概要に基づき、WBS(Work Breakdown Structure)を生成してください。
このWBSは、プロジェクトに初めてアサインされた新任のプロジェクトマネージャーが、タスクの全体像を把握し、具体的な計画を立てるための土台となるものです。
そのため、単にタスクを羅列するだけでなく、プロジェクト遂行における各フェーズの目的や注意点を明確にし、教育的な側面も持たせたアウトプットを期待します。

あなたは、大規模なシステム開発プロジェクトを数多く成功に導いてきた、経験豊富なシニアプロジェクトマネージャーです。
特に、プロジェクトの計画段階におけるスコープ定義とWBS作成の専門家であり、曖昧な要件を具体的なタスクに分解する能力に長けています。新任PMへの指導経験も豊富で、複雑な概念を分かりやすく、かつ実践的に説明することができます。

新任PMである私が、初めて担当する「NextGen CRM導入プロジェクト」の計画を立てています。プロジェクト全体の見通しを立て、タスクの洗い出しと管理を抜け漏れなく行うために、質の高いWBSを作成したいと考えています。しかし、どこから手をつければよいか、どのような粒度でタスクを分解すればよいか分からず困っています。そこで、あなたの専門的な知見を借りて、網羅的で分かりやすいWBSの草案を作成し、今後のプロジェクト計画の土台としたいです。

以下に、WBS作成の対象となるプロジェクトの概要を記述します。

・プロジェクト名: NextGen CRM導入プロジェクト

・プロジェクト目標: 営業部門の業務効率を30%向上させ、顧客満足度を20%向上させる。既存のExcelベースの顧客管理から脱却し、クラウド型CRMシステムを導入する。

・主要な成果物:
  - 要件定義書
  - 基本設計書、詳細設計書
  - 開発・設定が完了したCRMシステム
  - テスト仕様書、テスト結果報告書
  - データ移行ツール、移行済みデータ
  - ユーザートレーニング資料、トレーニング実施報告書
  - 運用マニュアル

・期間: 6ヶ月(2024年8月1日〜2025年1月31日)

・予算: 3,000万円

・チーム構成: プロジェクトマネージャー(1名)、ITエンジニア(3名)、営業部門代表(2名)、外部ベンダー(CRMツール提供元)

・制約・前提条件:
  - 導入するCRMツールは「SalesForce」を前提とする。
  - 既存の顧客データはExcel形式で約1万件存在する。
  - プロジェクト期間中の営業活動への影響を最小限に抑える必要がある。
  - セキュリティ要件は社内規定に準拠すること。

以下の形式に従って、WBSを生成してください。

1.  WBSは、階層構造が明確に分かるように、インデントを使用したリスト形式で記述してください。
2.  各項目には、階層を示すWBSコード(例: 1.1.1)を必ず付与してください。
3.  階層の定義は以下を参考にしてください。
    - 第1階層: プロジェクト全体(1. NextGen CRM導入プロジェクト)
    - 第2階層: プロジェクトの主要フェーズや管理項目(例: 1.1 プロジェクト管理, 1.2 要件定義)
    - 第3階層以降: 担当者が割り当て可能なレベルの具体的な作業タスク(例: 1.2.1 現行業務ヒアリング)
4.  各第2階層のブロックの末尾には、新任PM向けのワンポイントアドバイスとして、そのフェーズを進める上での注意点やコツを『アドバイス:』から始まる文章で簡潔に記述してください。

以下の思考プロセスに従って、最高のWBSを作成してください。

1.  まず、入力情報全体を深く理解し、プロジェクトの目的と主要な成果物を特定します。
2.  プロジェクトのライフサイクル(立ち上げ、計画、実行、監視・コントロール、終結)と主要な成果物を念頭に置き、WBSの第1階層と第2階層の大きな骨格を構築します。
3.  各第2階層の要素を、具体的な作業(タスク)である第3階層、必要であれば第4階層にまで詳細に分解します。タスクは、担当者が明確になり、工数が見積もれるレベルの粒度を目指します。
4.  システム開発や導入プロジェクトに共通して必要となるタスク(環境準備、テスト、データ移行など)を抜け漏れなく洗い出します。
5.  プロジェクト管理自体のタスク(進捗管理、課題管理、コミュニケーション管理など)も忘れずにWBSに含めます。これは見落とされがちですが、プロジェクト成功の鍵となる重要な要素です。
6.  最後に、各第2階層の塊ごとに、新任PMが陥りがちな失敗や注意すべき点を分析し、簡潔で実践的なアドバイスを生成します。

- 専門用語を多用せず、新任PMにも理解しやすい平易な言葉で説明してください。
- 出力するWBSは、入力情報に記載された内容のみを根拠とし、憶測に基づいたタスクを追加しないでください。ただし、プロジェクトを遂行する上で一般的に必要となる管理タスクや準備タスクは含めて構いません。
- このWBSは草案であるため、完璧さよりも、網羅性と構造の分かりやすさを重視してください。

なぜ、このプロンプトは「結果」を生み出すのか

このプロンプトが、なぜ質の高いアウトプットを生み出すのか。その裏側にある「設計思想」を分解してみましょう。これは単なるAIへの指示書ではなく、AIの思考そのものをデザインするための設計図なのです。

  1. AIに「魂」を吹き込む『役割設定』
    「あなたは経験豊富なシニアプロジェクトマネージャーです」と定義することで、AIは単なる情報検索エンジンから、特定のペルソナ(人格)を持った専門家へと変貌します。これにより、回答の視点、専門性、言葉遣いが劇的に向上し、まるで本物のメンターからアドバイスを受けているかのようなアウトプットが生成されるのです。
  2. 目的を共有する『背景説明』
    「新任PMである私が困っている」という背景を正直に伝えることで、AIは単に命令されたタスクをこなすのではなく、「この人を助けたい」という目的意識を持って応答を生成しようとします。この「目的の共有」こそが、AIを単なるツールから真のパートナーへと昇華させる鍵です。
  3. 思考を整理させる『情報の構造化』
    プロジェクトの情報を「# 入力情報」セクションにまとめ、箇条書きで整理して渡しています。これは、人間が会議の前にアジェンダを準備するのと同じです。構造化された情報をインプットすることで、AIは情報を正確に理解し、論理的な思考を組み立てやすくなります。
  4. 期待を超える成果物を生む『出力形式の指定』
    「WBSコードを付与」「階層を定義」「アドバイスを記述」といったように、出力形式を徹底的に具体化しています。これは、成果物の「テンプレート」をAIに渡しているようなものです。これにより、アウトプットのブレがなくなり、あなたが期待する(あるいは期待を超える)形式で、ピンポイントに成果物を得ることができます。
  5. AIの思考を導く『思考プロセス』の指定
    このプロンプトの最も強力な部分です。「プロジェクト管理タスクも忘れずに含める」といった指示は、専門家が見落としがちなポイントを先回りしてAIに教え込んでいます。これはAIに「考え方の手順」そのものを教える行為であり、これによりAIはより深く、多角的に思考し、網羅性の高いWBSを生成することができるのです。

このプロンプトは、AIに「何を(What)」やってほしいかを伝えるだけでなく、「誰として(Who)」「誰のために(For Whom)」「なぜ(Why)」「どのように(How)」考えてほしいのかまで、あらゆる角度からAIの思考と出力を精密にコントロールしているのです。

解決策の応用と注意点

このテンプレートは非常に強力ですが、さらにあなたの実務で使いこなすためのヒントをいくつかお伝えします。

  • カスタマイズのコツ
    このテンプレートの心臓部は「# 入力情報」です。あなたの担当するプロジェクトに合わせて、このセクションをできるだけ具体的に、そして正直に書き換えてください。特に「主要な成果物」と「制約・前提条件」が具体的であればあるほど、生成されるWBSの精度は飛躍的に向上します。Webサイト構築、新規事業開発など、プロジェクトの種類が違う場合は、「# 役割」をその道のプロフェッショナル(例: 「敏腕Webディレクター」)に変えるだけで、アウトプットの質がガラリと変わります。
  • 注意点:AIは万能ではない
    忘れないでください。AIが生成するのは、あくまで質の高い「草案」です。これを鵜呑みにせず、必ずチームメンバーや上司に見せてレビューを行い、あなたのプロジェクトの現実に合わせて調整してください。AIは最強の壁打ち相手であり、思考を加速させる触媒ですが、最終的な意思決定の責任はPMであるあなたにあります。
  • セキュリティへの配慮
    非常に重要なことですが、会社の機密情報や個人情報をプロンプトに直接入力することは絶対に避けてください。AIサービスを利用する際は、必ず自社のセキュリティポリシーを確認し、ルールを遵守しましょう。

結論 – 次のステップとマインドセットの変革

私たちは今日、AIへの指示の出し方を根本から見直しました。

曖昧な「お願い」では、凡庸な答えしか返ってこない。AIを優秀なパートナーにするには、明確な役割を与え、目的を共有し、情報を構造化し、具体的な出力形式を定義することが不可欠であることを見てきました。

ここで気づいてほしい、最も重要なことがあります。
それは、質の高いプロンプトを作るプロセスそのものが、プロジェクトの要件をあなた自身の頭で整理し、言語化する最高のトレーニングになるということです。

AIにうまく指示ができるようになった時、あなたは単なる「AIを使いこなせるPM」ではありません。プロジェクトの目的、スコープ、成果物を明確に定義し、チームを正しい方向へ導くことができる「真のプロジェクトマネージャー」へと成長しているはずです。

もう、一人で悩む必要はありません。
さあ、このプロンプトを手に、AIという最強の右腕と共に、あなたのプロジェクトを成功へと導いてください。

よろしければシェアをお願いします
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次