ポートフォリオはできた。でも、面接で語れる自信がない…
「ポートフォリオ、やっと完成した…!」
長い学習期間を経て、ようやく形になった自分のアプリケーション。その達成感は、何物にも代えがたいものですよね。私も、初めて自分のアプリが動いたときの感動は今でも鮮明に覚えています。
しかし、その喜びも束の間、すぐに大きな不安が襲ってきます。
「このポートフォリオについて、面接でうまく説明できるだろうか?」
「『なぜこの技術を選んだんですか?』って突っ込まれたら、なんて答えよう…」
「チュートリアルを参考にした部分が多いけど、オリジナリティについて聞かれたらどうしよう…」
この不安、痛いほどよくわかります。なぜなら、これらはすべて私自身がキャリアの初期に抱えていた悩みそのものだからです。この「作ったはいいが、語れない」という壁は、多くのWebエンジニア志望者がぶつかる大きな壁です。
最近では「AIに面接練習を手伝ってもらおう」と考える方も多いでしょう。素晴らしいアイデアです。しかし、多くの人がそのポテンシャルを全く引き出せないまま、「AIって、結局ありきたりな質問しかしてくれないな…」と諦めてしまっています。
この記事は、そんなあなたのために書きました。これは机上の空論ではありません。私が数々の失敗と試行錯誤の末にたどり着いた、AIを単なるおもちゃから「最強の模擬面接官」へと変貌させる、具体的なプロンプト設計術です。この記事を読み終える頃には、あなたは自分のポートフォリオの弱点を的確に突き、思考を深めてくれる最高の壁打ち相手を手に入れているはずです。
あなたもやっていませんか? AIの性能を殺す「残念な聞き方」
多くの人がやりがちな、典型的な失敗例から見ていきましょう。おそらく、あなたも似たような聞き方をしているのではないでしょうか。
Webエンジニアの採用面接官のロールプレイをお願いします。
今、転職活動をしていて、ポートフォリオを作りました。
作ったのは「みんなの書評ログ」というアプリで、読んだ本の感想を記録して共有するものです。技術スタックはReact、Node.js、PostgreSQLです。
このポートフォリオについて、技術的な質問をいくつかしてください。
面接の練習がしたいです。
最後に、面接の感想やアドバイスを教えてください。
準備ができたら始めてください。
一見、丁寧で悪くないプロンプトに見えるかもしれません。しかし、この「お願い」に対して、AIから返ってくるのは、だいたい次のような当たり障りのない応答です。
はい、承知いたしました。
それでは、これよりWebエンジニアの採用面接を始めさせていただきます。
私が面接官役を務めますので、あなたは応募者として、ご自身のポートフォリオについてお答えください。
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こんにちは、〇〇さん(応募者の方のお名前を想定)。本日は面接にお越しいただきありがとうございます。担当の佐藤とします。
早速ですが、ご提出いただいたポートフォリオ「みんなの書評ログ」について、いくつか質問させてください。拝見しましたが、とても興味深いアプリケーションですね。
では、最初の質問です。
**質問1:**
この「みんなの書評ログ」を開発する上で、技術的な挑戦や、特に工夫した点を教えていただけますか?技術選定の理由と絡めてお話しいただけると嬉しいです。
(どうぞ、お答えください。)
どうでしょうか?「ああ、やっぱりこの質問か…」と思いませんでしたか?
もちろん、この質問自体は実際の面接でもよく聞かれます。しかし、これだけではあなたの思考を深める練習にはなりません。このやり取りの後も、きっと「苦労した点は?」「今後の課題は?」といった、ネットで検索すれば出てくるようなテンプレ質問が続くだけでしょう。
これでは、本当の面接で遭遇する「なぜ?」「具体的には?」「他に選択肢はなかったの?」といった鋭い深掘りに対応する練習には到底なりません。
なぜこの「お願い」ではダメなのか?
先ほどの「悪い例」が機能しない根本的な原因は、AIとのコミュニケーションをあまりにも軽視している点にあります。AIは魔法の箱ではありません。あなたが与えた情報と指示の範囲内でしか思考できない、極めて論理的なパートナーです。
失敗の原因は、大きく4つに分解できます。
- 面接官のペルソナが曖昧すぎる
「Webエンジニアの採用面接官」というだけでは、AIは何を基準に質問すればいいか分かりません。ジュニアのポテンシャルを見たいのか、即戦力のシニアを探しているのか。技術の何を重視するのか。その人物像が不明なため、最大公約数的な、当たり障りのない質問しか生成できないのです。 - あなたのコンテキストが欠落している
あなたがどんな経歴で、今何に一番不安を感じているのかをAIは全く知りません。あなたの「痛み」が伝わっていないのに、的確な処方箋(質問)を出せるはずがないのです。 - 指示が「お願い」レベルで具体的でない
「技術的な質問をいくつか」では、AIに全てを丸投げしているのと同じです。「どんな観点で」「何個くらい」「詰まったときはどうしてほしいか」といった具体的な指示がなければ、AIはあなたにとって最も価値のある質問を届けることができません。 - 情報が構造化されていない
人間にとっては読める文章でも、AIにとってはどこが役割で、どこが背景で、どこが指示なのかを正確に切り分けるのは難しい作業です。結果として、あなたの意図を誤って解釈してしまうリスクが高まります。
要するに、「雑な依頼」からは「雑なアウトプット」しか返ってこないのです。
AIを「本物の面接官」に変える魔法のプロンプト
では、どうすればAIを最高の壁打ち相手に変えることができるのでしょうか。答えは、AIに明確な「役割」と「コンテキスト」を与え、具体的な「指示」を構造化して伝えることです。
今からお見せするのは、先ほどの「残念な例」を劇的に改善したプロンプトです。ぜひ、あなた自身の情報に書き換えて、そのままコピーして使ってみてください。
#役割設定
あなたは、Web開発企業でジュニアエンジニアの採用を数多く担当してきた、経験豊富な技術面接官です。候補者のポテンシャルを見極めることに長けており、特にポートフォリオに関する深掘り質問を通じて、候補者の技術的思考力、問題解決能力、学習意欲を評価します。圧迫面接は行わず、候補者が話しやすいように穏やかな口調で、対話を促すスタイルで面接を進めてください。
#背景・コンテキスト
私は、実務未経験からWebエンジニアへの転職を目指している学習者です。現在、転職活動に向けてポートフォリオを作成しましたが、その内容に自信がありません。特に、技術選定の理由や実装で工夫した点、苦労した点などを面接でうまく説明できるか不安です。そこで、あなたに技術面接官役をお願いし、私のポートフォリオに関する模擬面接を実施していただきたいです。この練習を通じて、自身の考えを言語化する能力を高め、自信を持って本番の面接に臨めるようになりたいと考えています。
#入力情報
以下に、私のプロフィールとポートフォリオの情報を記載します。この情報を基に面接を進めてください。
・候補者プロフィール
- 氏名: 田中 健太 (28歳)
- 経歴: 4年制大学卒業後、食品メーカーで営業職として5年間勤務。1年前にWebエンジニアへのキャリアチェンジを決意し、プログラミングスクールと独学で学習。
- 学習した技術: HTML, CSS, JavaScript, React, Node.js, Express, PostgreSQL, Git, GitHub, Docker(基礎)
・ポートフォリオ概要
- アプリケーション名: 「みんなの書評ログ」
- 概要: 読んだ本の感想を記録し、他のユーザーと共有できるWebアプリケーション。
- 主な機能:
- ユーザー認証機能 (新規登録、ログイン、ログアウト)
- 書籍検索機能 (Google Books APIを利用)
- 書評の投稿、閲覧、編集、削除機能 (CRUD)
- 他のユーザーが投稿した書評の一覧表示機能
- 使用技術:
- フロントエンド: React, React Router
- バックエンド: Node.js, Express
- データベース: PostgreSQL
- デプロイ環境: Heroku
- GitHubリポジトリ: (架空のURL: https://github.com/kenta-tanaka/book-review-app)
・候補者が特に不安に思っている点
- 多くの機能がチュートリアルを参考にしており、オリジナリティについて問われると弱い。
- なぜReactやNode.jsを選んだのかという、技術選定の理由を論理的に説明できない。
- エラーハンドリングやセキュリティ対策について、具体的な実装を問われると回答に詰まってしまう。
- データベースのテーブル設計について、なぜそのように設計したのか意図を説明する自信がない。
#具体的な指示
1. これから、入力情報に基づいた技術面接の模擬練習を開始します。あなたは面接官として、私(候補者)に質問を一つずつ投げかけてください。
2. 面接は、まず自己紹介とポートフォリオの概要説明を私に求める質問から始めてください。
3. 私の回答に対して、さらに深掘りする質問をしてください。特に、「入力情報」に記載した「候補者が特に不安に思っている点」を解消できるよう、以下の観点から質問を重点的に投げかけてください。
- 技術選定の背景とトレードオフの考慮
- 設計上の工夫や意図(データベース設計、API設計、コンポーネント設計など)
- 実装で最も苦労した点と、その具体的な解決プロセス
- セキュリティやパフォーマンス面で考慮したこと(例: XSS対策、SQLインジェクション対策、APIの応答速度など)
- 今後の改善点や追加したい機能、その技術的実現方法
4. 私が回答に詰まったり、不適切な回答をしたりした場合は、すぐに答えを教えるのではなく、思考を促すような追加の質問やヒント(例:「〇〇という観点ではどうですか?」「他にどんな選択肢がありましたか?」)を与えて、私が自ら考えを整理し、回答を導き出せるようにサポートしてください。
5. 面接時間は20分程度を想定し、5〜7個程度の質問をしてください。
6. 面接の最後に、総合的なフィードバックをお願いします。フィードバックは、必ず以下の3つの観点で、具体的かつ建設的なアドバイスを箇条書きで提示してください。
- 良かった点: 具体的にどの回答が、どのような点で評価できるかを説明する。
- 改善点: どの回答が不十分だったか、そして本番の面接でより良く伝えるための具体的な表現や思考プロセスをアドバイスする。
- アピールするとさらに良くなるポイント: 今回の問答では引き出せなかったが、候補者の経験やポートフォリオから推測される、アピールすべき潜在的な強みや学習姿勢について言及する。
#出力形式
- 面接の進行中は、あなたの発言(質問)のみを出力してください。私が回答を送信するのを待ってから、次の質問や応答を生成してください。
- 面接の最後に行うフィードバックは、「---総合フィードバック---」という区切り線を最初に入れ、その後に「良かった点」「改善点」「アピールするとさらに良くなるポイント」の各項目を立てて、箇条書きで分かりやすくまとめてください。
#開始の合図
あなたがこの内容をすべて理解し、準備ができましたら、「それでは、田中さんの模擬面接を始めます。準備はよろしいでしょうか?」と尋ねてください。私が「はい、よろしくお願いします。」と返信したら、最初の質問から面接を開始してください。
なぜこのプロンプトは機能するのか?思考プロセスの分解
このプロンプトが、なぜAIの性能を最大限に引き出せるのか。その裏側にある「設計思想」を解説します。これは単なるテクニックではなく、AIというパートナーの思考を正確にガイドするための技術です。
ポイント1: 解像度の高い「役割設定(ペルソナ)」
悪い例では「面接官」としか指示していませんでした。しかし改良版では「ジュニア採用経験が豊富」「ポテンシャルを見抜くのが得意」「穏やかな口調」と、AIが演じるべきキャラクターを映画の脚本のように詳細に設定しています。これにより、AIはあなたのレベル感に合わせた、思考を促すような質の高い質問を、練習しやすい雰囲気の中で投げかけてくれるようになります。
ポイント2: あなたの弱点をさらけ出す「背景・コンテキスト」
最も重要なのがここです。特に「候補者が特に不安に思っている点」を具体的に言語化することで、AIはあなたがどこを重点的に練習したいのかを正確に理解します。技術選定、DB設計、セキュリティ…。あなたが「ここを突かれたら嫌だな」と思う部分を正直に書けば書くほど、AIは優秀な教師として、その弱点を的確に、かつ優しく指摘してくれるのです。
ポイント3: AIを教育する「具体的な指示」
「質問して」という丸投げではなく、タスクをステップ・バイ・ステップで分解しています。
- 質問の焦点: 「技術選定」「設計の意図」など、聞いてほしい観点を具体的に指定することで、深掘りの質を保証します。
- 対話の進め方: 「詰まったらヒントを与えて」という指示は決定的です。これにより、AIは単なる質問者から、あなたの思考整理を手伝ってくれる優秀なチューター(指導者)へと役割が昇華します。
- フィードバックの要件: 「良かった点」「改善点」「さらなるアピールポイント」という3つの評価軸を設けることで、漠然とした感想ではなく、具体的で次につながる(Actionableな)フィードバックを引き出せます。
このプロンプトを実行すると、AIは最初にこう応答します。
「それでは、田中さんの模擬面接を始めます。準備はよろしいでしょうか?」
たった一言ですが、ここには全てのコンテキストを理解したというAIの自信が表れています。ここから始まる対話は、もはや単なる質疑応答ではありません。あなたの弱点と目標を深く踏まえた専属メンターとの、濃密な1on1セッションなのです。
実践:この「設計図」をあなただけのものにするために
提供したプロンプトは強力なテンプレートですが、これをあなた自身のものにカスタマイズすることで、さらに効果は何倍にもなります。
- あなたの言葉でプロフィールを語る: 「入力情報」セクションは、あなたの実際の経歴、学習してきた技術、そしてポートフォリオの内容に正直に書き換えてください。
- あなたの本当の「不安」をさらけ出す: 「エラーハンドリングが雑な自覚がある」「状態管理にReduxを使ったけど、なぜ必要だったか説明できない」など、具体的な弱点を正直に書きましょう。その正直さが、練習の質を決定づけます。
- 面接官のペルソナを変えてみる: 慣れてきたら、役割設定を「技術の深さを追求する、ちょっと厳しいシニアエンジニア」や「ユーザー視点を重視するプロダクトマネージャー」に変えてみましょう。異なる角度からの質問に答えることで、あなたの視野は格段に広がります。
ただし、一点だけ注意してください。AIは素晴らしいシミュレーターですが、万能ではありません。生成する情報が常に100%正しいとは限らないので、技術的な事実関係は必ず一次情報で確認する癖をつけましょう。
「作業者」から「設計者」へ。マインドセットの変革
今日、私がお伝えしたかったのは、単なる「便利なプロンプト」ではありません。それは、AIとの向き合い方、そして自分自身の課題解決へのアプローチそのものを変革するということです。
雑な「お願い」でAIを使うのは、言われたことをこなすだけの「作業者」の思考です。
一方で、目的を明確にし、役割とコンテキストを与え、思考のプロセスを設計してAIを動かすのは、まさにエンジニアリング、つまり「設計者」の思考です。
ポートフォリオの技術面接の不安を解消するために始めたこの試みは、実は、あなたがエンジニアとして必須のスキル、すなわち「複雑な要求を分解し、言語化し、設計に落とし込む能力」を鍛える最高のトレーニングでもあります。
もう、AIにありきたりな質問をさせて時間を無駄にするのはやめましょう。
この設計図を手に、あなたの思考を深め、弱点をあぶり出し、自信を育ててくれる最高のパートナーを育て上げてください。
さあ、あなたの不安を自信に変える、最高の模擬面接を始めましょう。

