停滞プロジェクトが動く!PMのためのAI活用プロンプト術

目次

導入 – あなたのその「痛み」、痛いほどわかります

毎週のように開かれる、営業部門と開発部門の調整会議。

「今期の目標達成には、この大口顧客の機能が絶対に必要なんです!」
「その機能は今の設計では無理です!先にリファクタリングをしないと、システムが崩壊します!」

終わらない、平行線の議論。あなたは両者の間に挟まれ、ひたすら意見を聞き、なだめ、持ち帰る。上司からは「進捗はどうなってるんだ?」とプレッシャーをかけられ、チームの士気は下がる一方。夜、ベッドに入っても、頭の中では関係者の顔と声がぐるぐると回り続ける…。

もし、あなたが今、こんな「調整地獄」の真っ只中にいるのなら、この記事はあなたのために書かれました。

かつて私も、あなたと全く同じ場所で、出口のないトンネルをさまよっていたプロダクトマネージャー(PM)の一人でした。

この記事は、小難しい理論を解説するものではありません。私が数々の修羅場を乗り越える中でたどり着いた、対立するステークホルダーとの合意形成を体系的に設計し、プロジェクトの前進を後押しする、極めて実践的な「武器」をご紹介します。もう一人で抱え込むのは、今日で終わりにしましょう。

問題提起 – なぜあなたの調整はいつも失敗に終わるのか

状況を打開しようと、あなたは上司や同僚、あるいはChatGPTのようなAIに助けを求めたことがあるかもしれません。しかし、返ってくるのは「両者の意見をよく聞きましょう」「冷静に話し合う場を設けましょう」といった、教科書通りのアドバイスばかり。

なぜ、的確なアドバイスが得られないのか。それは、多くの場合、私たち自身が問題を「丸投げ」してしまっているからです。

例えば、以下のような相談の仕方をしていませんか?

プロダクトマネージャーをやっています。今、担当しているプロジェクトが完全に止まってしまって困っています。

顧客管理システムのアップデートを進めているのですが、営業部門と開発部門が対立して、まったく前に進みません。

営業は、とにかく特定の大口顧客が欲しがっている新しいレポート機能をすぐに追加しろと言ってきます。今期の売上目標達成のために、これがないと絶対にダメだと一点張りです。

それに対して開発は、システムの技術的な問題が山積みだから、新機能よりリファクタリングを優先すべきだと言い張っています。営業の言う機能は、今のままでは無理やり実装することになり、後で絶対問題になると言って聞きません。

私は両者の間に挟まれて、毎週のように調整会議をしていますが、お互いが自分の主張を繰り返すだけで話がまとまらず、精神的に疲弊しています。上司からは進捗が遅いとプレッシャーをかけられるし、もうどうしたらいいかわかりません。

この最悪な状況をどうにかして、プロジェクトを前に進めたいです。営業と開発、両方が納得するような何か良い解決策や、彼らをうまく説得する方法はないでしょうか。アドバイスをください。

一見、状況を詳しく説明しているように見えます。しかし、これでは本質的な解決策は得られません。なぜなら、これは整理されていない「悩み」の吐露であり、解決策を導き出すための「分析」になっていないからです。これでは、まるでAIに「プロジェクトがうまくいきません。どうすれば解決できますか?」と聞いているのと同じレベルなのです。

問題を「構造」で捉えられていますか?

なぜ先ほどの相談ではダメなのでしょうか。根本的な原因は、問題の「解像度」が低いまま、助けを求めている点にあります。

  • 感情と事実が混在している: 「困っています」「疲弊しています」という感情と、「営業はAを主張し、開発はBを主張している」という事実がごちゃ混ぜになっています。これでは客観的な分析ができません。
  • 背景が語られていない: なぜ営業はその機能が必要なのか(競合の存在、売上目標)、なぜ開発はリファクタリングを優先したいのか(技術的負債、将来のリスク)。その「なぜ」の部分が浅いため、表面的な対立にしか見えません。
  • ゴールが曖昧: 「プロジェクトを前に進めたい」「うまく説得したい」というゴールは、あまりに漠然としています。具体的に「どのような状態」を目指すのかが定義されていません。

要するに、私たちは無意識のうちに、相手(上司やAI)に「私の代わりにこの複雑な状況を整理して、魔法のような解決策をください」と期待してしまっているのです。しかし、優秀なコンサルタントほど、曖昧な相談には具体的な答えを出しません。まず彼らがするのは、状況を整理し、問題を構造化するための「質問」です。

ならば、私たちがやるべきことは一つ。相手に質問させる前に、自ら問題を構造化し、解決への道筋を設計することです。

解決策 – AIを優秀な戦略パートナーに変える「思考整理テンプレート」

ここからが本題です。私が実際に使い、数々の「調整地獄」を突破してきた思考整理テンプレートをご紹介します。これは、あなた自身の頭の中を整理するため、そしてAI(ChatGPTなど)を単なるチャットボットから優秀な戦略パートナーに変えるための、効果的なプロンプトです

以下のテンプレートをコピーし、### 入力情報 の部分をあなたのプロジェクトの状況に合わせて書き換えて、そのままAIに投げかけてみてください。

あなたは、数多くのITプロジェクトを成功に導いてきた、経験豊富なプロダクトマネジメントコンサルタントです。特に、部門間の利害対立を解消し、プロジェクトを前進させるための合意形成ファシリテーションを専門としています。クライアントは、ステークホルダー間の調整に疲弊しているプロダクトマネージャーです。あなたの役割は、彼の具体的な悩みに対して、単なる精神論や一般論ではなく、客観的な分析に基づいた、明日からすぐに実行できる具体的かつ戦術的なアクションプランを提示することです。

以下の背景と入力情報を深く理解し、最高のコンサルティングを提供してください。

### 背景とコンテキスト
私はBtoB向け顧客管理システム「ConnectHub」を担当しているプロダクトマネージャーです。現在、次期大型アップデート「Project Phoenix」を推進していますが、営業部門と開発部門の要求が真っ向から対立し、プロジェクトが完全に停滞しています。両部門の間に挟まれ、調整会議を繰り返すたびに疲弊しており、具体的な打開策を見出せずにいます。経営層からは進捗遅延へのプレッシャーが強まっており、早急に事態を打開し、プロジェクトを再始動させる必要があります。

### ゴール
対立する両部門の要求を構造的に整理し、それぞれの主張の背景にある本質的な課題を明らかにします。その上で、単なる妥協案ではない、プロダクトの中長期的な成功に繋がる合意形成案を複数立案し、次回の調整会議を成功させるための具体的なファシリテーションプランを策定すること。

### 入力情報
- プロダクト名: 顧客管理システム「ConnectHub」
- プロジェクト名: 次期大型アップデート「Project Phoenix」
- 対立するステークホルダー: 営業部門 vs 開発部門

- 営業部門の主張と状況
  - 最優先で実装してほしい機能: 大口顧客である株式会社メガコーポから強く要望されている「個別カスタマイズレポートの出力機能」。
  - 主張の背景: 競合であるA社が類似機能を先行リリースしており、この機能を実装しなければメガコーポは解約、もしくは大型契約の失注に繋がる可能性が極めて高い。
  - 主張の根拠: この契約を獲得できれば、今四半期の事業部全体の売上目標を120%達成できる見込み。短期的なビジネスインパクトが何よりも重要だと考えている。
  - 開発部門への不満: 技術的な課題を理由にビジネスチャンスを逃していると感じている。市場のスピード感についてきてほしい。

- 開発部門の主張と状況
  - 最優先で対応したいタスク: データベースのパフォーマンス改善と、古くなっている認証基盤の全面的なリファクタリング。
  - 主張の背景: 現在のシステムは度重なる機能追加で技術的負債が蓄積しており、このままではシステム全体のレスポンス低下やセキュリティインシデントのリスクが日に日に高まっている。
  - 主張の根拠: 営業が要求する「個別カスタマイズレポート機能」は、現行のデータ構造では場当たり的な実装しかできず、さらなる技術的負債の温床となる。プロダクトの持続性や安定性といった、中長期的な健全性を確保することが最重要だと考えている。
  - 営業部門への不満: プロダクトの技術的な制約や将来のリスクを軽視し、目先の売上だけを追った無茶な要求が多すぎると感じている。

### 指示
上記の情報を基に、以下のステップに従って、私が次にとるべきアクションを体系的に提案してください。

1.  対立構造の分析と論点の可視化
    - 営業と開発の主張を、単なる「機能追加 vs リファクタリング」という表面的な対立ではなく、「短期的な売上機会 vs 長期的なプロダクト健全性」「特定顧客の要求 vs 全体最適」「機会の獲得 vs リスクの回避」といった複数の軸で整理してください。
    - それぞれの主張の裏にある、言語化されていない懸念や期待(例: 営業の目標達成プレッシャー、開発の品質への責任感)を推測し、対立の根本原因を明らかにしてください。

2.  共通のゴールの設定
    - この対立を乗り越えた先にある、両部門が共有できるはずの「共通のゴール」を具体的に定義してください。例えば、「『ConnectHub』を持続的に成長させ、市場における競争優位性を確立すること」のような、より上位の目的を言語化し、なぜそれが両者にとって重要なのかを説明してください。

3.  具体的な解決策の選択肢の提示
    - 二者択一ではない、双方の要求を部分的にでも満たす創造的な解決策を、少なくとも3つ提案してください。それぞれの案について、メリット、デメリット、実現に必要なリソース(工数や期間の概算)、および考慮すべきリスクを明確に記述してください。
    - 例えば、以下のような観点から選択肢を構築してください。
      - 機能のスコープを限定したMVP(Minimum Viable Product)を先行開発し、その裏でリファクタリング計画を進める案。
      - リファクタリングを優先する代わりに、その期間と完了後のメリット(新機能開発の速度向上など)を営業部門にコミットし、メガコーポには代替策(例: 手動でのレポート作成サポート)を提示する案。
      - 顧客であるメガコーポと直接対話し、技術的制約を説明した上で、より実現可能性の高い代替要件を探る交渉を行う案。

4.  合意形成のためのファシリテーションプラン
    - 次回の調整会議を、単なる意見のぶつけ合いで終わらせないための、具体的なアジェンダと進め方をステップ・バイ・ステップで提案してください。
    - 会議の冒頭で何を共有し(例: 上記2で設定した共通ゴール)、どのような順番で議論を進めるべきか。
    - 各解決策を客観的に評価するために、どのような判断基準(例: 売上インパクト、開発工数、技術的負債の増減、顧客満足度への影響)を設定し、どのように議論をリードすべきか。
    - 感情的な対立を避け、建設的な議論を促すための具体的な発言や問いかけの例を提示してください。

### 制約条件
- 専門用語は避け、平易な言葉で説明してください。
- どちらか一方の立場に偏ることなく、常に中立的かつ客観的な視点を保ってください。
- 抽象的な理想論ではなく、私がすぐに実践できる、具体的で現実的なアクションプランとして提示してください。

### 出力形式
以下の構造で、マークダウン形式の文章を生成してください。


## 1. 対立構造の分析と論点の可可化
## 2. 目指すべき共通のゴール
## 3. 現実的な解決策の選択肢(3案)
## 4. 次回調整会議のためのアクションプラン

思考プロセスの分解 – なぜこのテンプレートは機能するのか

最初の「悪い例」と、この「良い例」は何が決定的に違うのでしょうか。それは、あなたが問題解決の「主導権」を握っているかどうかの違いです。

  1. 役割の再定義(ペルソナ設定):
    悪い例では、相手が何者かを定義していません。良い例では、相手を「経験豊富なPMコンサルタント」と明確に定義しています。これにより、AIは膨大な知識の中から最も関連性の高い専門知識を引き出し、コンサルタントとして振る舞おうとします。これは、相談相手を「友人」から「プロの専門家」に変える行為です。
  2. 情報の構造化(コンテキスト提供):
    悪い例では、感情と事実が混ざった「物語」でした。良い例では、「背景」「ゴール」「入力情報」「各部門の主張」といった形で、情報が客観的なデータとして構造化されています。これにより、AIは解釈に迷うことなく、事実ベースで正確に問題を分析できます。
  3. 思考プロセスの提示(指示の具体性):
    悪い例では、「どうすればいい?」という曖昧な質問でした。良い例では、「1. 分析 → 2. ゴール設定 → 3. 解決策提示 → 4. 実行計画」という、プロのコンサルタントが実際に問題を解決する際の思考プロセスそのものをステップ・バイ・ステップで指示しています。これは、AIに魚を与えるのではなく、最高の魚の釣り方(思考のフレームワーク)を教えているのと同じです。
  4. アウトプットの設計(出力形式の指定):
    悪い例では、どんな形式の答えが欲しいかすら伝えていません。良い例では、最終的に欲しいアウトプット(コンサルティングレポート)の目次構造まで厳密に指定しています。これにより、あなたは構造化され、すぐに実用的な形で回答を得ることができるのです。

このテンプレートは、単にAIへの指示書ではありません。これを作成するプロセスそのものが、あなた自身の思考を整理し、問題の全体像を俯瞰し、解決への道筋を描くための、強力な自己分析ツールとなるのです。

実践 – この武器をさらに使いこなすために

このテンプレートは非常に強力ですが、さらにあなたの状況に合わせてカスタマイズすることで、その威力は増します。

  • ステークホルダーの変更:
    今回は「営業 vs 開発」でしたが、「マーケティング vs BizDev」「経営層 vs 現場」「顧客サポート vs 品質管理」など、あなたのプロジェクトに合わせて自由に変更してください。それぞれの主張の背景や根拠を言語化するプロセスが重要です。
  • 指示のカスタマイズ:
    もし解決策のアイデアがすでにあるなら、「3. 具体的な解決策の提示」にあなたの案を加えて、客観的な評価をAIに求めてみましょう。あるいは、「SWOT分析を追加して」のように、別の分析フレームワークを指示に加えることも有効です。
  • 注意点:
    忘れてはならないのは、AIはあくまであなたの「戦略パートナー」であり、最終的な意思決定者ではないということです。AIが生成したレポートは、優れた叩き台になります。しかし、それを鵜呑みにするのではなく、必ずあなた自身の言葉で咀嚼し、あなたの責任で関係者に伝え、議論をファシリテートしてください。このテンプレートは、そのための優れた脚本を提供してくれるはずです。

結論 – あなたは「調整役」ではなく、未来を描く「指揮者」だ

「調整地獄」の渦中にいると、私たちは自分を無力な「調整役」「板挟み役」だと感じてしまいがちです。しかし、それは違います。

対立が起きるということは、それだけ各部門が自分の役割に責任を持ち、プロダクトを良くしようと真剣に考えている証拠です。PMの真の役割は、そのバラバラなエネルギーをただ調整することではありません。それぞれの情熱や意見を尊重し、それらを統合して、より大きな「共通のゴール」へと導く「指揮者」なのです。

今回ご紹介したテンプレートは、その指揮者であるあなたが持つべき「指揮棒」であり「楽譜」です。

  • 感情の渦に飲み込まれるのではなく、問題を構造で捉える
  • 答えを丸投げするのではなく、解決へのプロセスを自ら設計する
  • AIを便利な道具として使うのではなく、最強の戦略パートナーとして活用する

このマインドセットの変革こそが、あなたを「調整地獄」から解放し、プロダクトを成功へと導く原動力となります。

さあ、テンプレートを手に、次回の会議の主導権を取り戻しにいきましょう。あなたは一人ではありません。自信を持って、その一歩を踏み出してください。応援しています。

よろしければシェアをお願いします
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次