はじめに
サービス企画担当者として、あなたはユーザーの声に耳を傾けることの重要性を誰よりも理解しているはずです。ユーザーインタビューを実施し、何時間もかけて議事録を読み返し、「よし、これで顧客の課題は掴んだ」と意気込む。しかし、その議事録を前に途方に暮れた経験はありませんか?
「画面がごちゃごちゃしている」「通知が多い」…ユーザーの口から語られるのは、もっともらしい「不満点」ばかり。しかし、それをそのまま改善リストに加えても、なぜかサービスは飛躍的に良くならない。むしろ小手先の修正に終わり、本質的な価値向上に繋がらない。
「本当に解決すべき課題は、もっと別のところにあるのではないか…?」
その直感は、おそらく正しいです。私自身、企画担当者として何度もこの壁にぶつかってきました。ユーザーの言葉の裏に隠された、彼ら自身も言語化できていない「本当のニーズ」をどうやって見つけ出すのか。これは、私たちの仕事における永遠のテーマと言えるでしょう。
この記事は、そんなあなたのためのものです。机上の空論ではありません。AIを単なる要約ツールとしてではなく、思考を深めるパートナーとして活用し、ユーザーインタビューの議事録から「顧客の隠れたニーズ」という宝を掘り出すための、極めて実践的なプロセスを共有します。
典型的な失敗例
多くの人がAIの力を借りようとする時、無意識にやってしまいがちな「失敗のパターン」があります。それは、AIに思考を「丸投げ」してしまうことです。
例えば、以下のようなプロンプト(指示文)に見覚えはないでしょうか。
【ありがちな「丸投げ」プロンプト】
ユーザーインタビューの議事録です。
これを分析して、なにか気づいたこととか問題点を教えて。
あと、サービスを良くするための改善案も考えてください。
(※以下、インタビュー議事録が続く...)
この曖昧な指示でAIから返ってくるのは、一見するとまとまっているように見える、しかし深みのないアウトプットです。
【「丸投げ」プロンプトから得られる浅い結果】
1. ユーザーインサイトサマリー
PMであるユーザーは、情報が多すぎること、報告書作成が非効率なことに課題を感じている。
2. 課題の分析
- UI/UX上の課題: 画面が煩雑で、通知が多すぎる。
- 機能的な課題: レポート機能が不足している。
- ワークフロー上の課題: チームの負荷状況が分かりにくい。
3. サービス改善提案
- 提案1: 画面にフィルター機能を追加して見やすくする。
- 提案2: レポートを自動で生成する機能を追加する。
– 提案3: チームの負荷を可視化するダッシュボードを追加する。
どうでしょうか。課題と解決策が1対1で対応しており、非常に分かりやすいレポートに見えます。しかし、これでは「ユーザーが言ったことを、そのまま言い換えただけ」に過ぎません。これを見て次のアクションを考えても、「ユーザーに言われたから実装する」という受け身の開発に陥ってしまうのです。
なぜ、このような浅い分析しか生まれないのでしょうか。
なぜ失敗するのか
先ほどの「丸投げ」プロンプトが失敗する根本的な原因は、AIへの向き合い方にあります。それは、AIを「優秀な専門家」ではなく「便利な作業者」として扱ってしまっている点です。
具体的には、以下の4つの決定的な欠陥があります。
- 役割(ペルソナ)の欠如: AIに「誰として」分析してほしいのかを指定していません。UXリサーチャーなのか、経営者なのか。立場がなければ、当たり障りのない一般的な視点でしか物事を語れません。
- 背景(コンテキスト)の不足: あなたが「誰で」「何のために」この分析を求めているのかを伝えていません。AIは、あなたの目的を理解できないまま、ただテキストを要約するしかなくなります。
- 指示の曖昧さ: 「気づいたこと」「問題点」という言葉はあまりに曖昧です。AIは、何を基準に、どのくらいの深さで分析すれば良いのか判断できません。
- 思考フレームワークの不在: 最も重要な点です。AIに「何をすべきか(What)」は伝えても、「どのように考えるべきか(How)」という思考の道筋、つまり専門家が使う分析のフレームワークを与えていません。
これでは、AIはその性能を全く発揮できません。AIへの「指示」から、AIとの「協働」へ。その発想の転換こそが、隠れたニーズを見つけ出す鍵となります。
解決策
では、どうすればAIを「思考のパートナー」に変えることができるのか。その答えが、このプロンプトです。これは単なる指示書ではなく、AIに「熟練のUXリサーチャー」として振る舞うための脚本そのものです。
ぜひ、コピーしてあなたの実務で使ってみてください。
【顧客の隠れたニーズを掘り出す「探求」プロンプト】
あなたは、人間の深層心理と行動原理を深く理解する、熟練のUXリサーチャー兼サービスデザイナーです。ユーザーの言葉の裏に隠された本質的な課題や満されていない欲求(インサイト)を的確に見抜き、それを具体的なサービス改善の機会へと転換する能力に長けています。
私は、タスク管理SaaS「TaskFlow」のサービス企画担当者です。現在、次期アップデートの方針を策定するために、ユーザーインタビューを実施しています。今回、プロジェクトマネージャーとしてTaskFlowを利用しているユーザーへのインタビューを行いました。彼の発言の断片から、我々がまだ気づいていない「顧客の隠れたニーズ」や「本質的な課題」を抽出し、次のアクションに繋がる具体的なヒントを得たいと考えています。あなたの専門的な視点から、以下のインタビュー議事録を深く分析し、示唆に富んだレポートを作成してください。
以下は、分析対象となるユーザーインタビューの議事録です。
- サービス名: TaskFlow
- サービス概要: チーム向けのタスク管理とプロジェクト進捗を可視化するSaaS。カンバンボード、ガントチャート、レポート機能などを提供。
- インタビュー対象者:
- 名前: 田中 誠
- 役職: 株式会社ネクストステップ プロジェクトマネージャー
- チーム規模: 8人
- 課題感: チーム全体の進捗管理と、メンバー間の情報共有の効率化。
- インタビュー議事録(抜粋):
(※ここにあなたの議事録を貼り付けます)
上記の入力情報に基づき、以下のステップに従って分析レポートを作成してください。
1. 発言の整理: ユーザーの発言内容を「発言(Say: 実際に語られた言葉)」、「行動(Do: 実際に行っていること)」、「思考・感情(Think/Feel: 発言から推察される考えや感情)」の3つの観点から整理してください。
2. ニーズの抽出: 整理した内容から、ユーザーが直接的に口にしている「顕在ニーズ」と、その背景にある本質的な欲求である「潜在ニーズ(隠れたニーズ)」を対比させて抽出してください。
3. Jobs-to-be-Done (JTBD) の特定: ユーザーがこのツール(TaskFlow)を「雇用」して、本当に片付けたい「用事(Job)」は何かを定義してください。「[動詞] + [目的語] + [状況や文脈]」の形式で、少なくとも2つ特定してください。
4. インサイトの言語化: 上記の分析から導き出される、サービス企画担当者が注目すべき核心的なインサイト(顧客に関する新しい発見や気づき)を簡潔にまとめてください。
5. サービス改善の機会: 抽出した潜在ニーズ、JTBD、インサイトに基づき、TaskFlowをどのように改善できるか、具体的な機能アイデアやコンセプトを3つ提案してください。それぞれのアイデアが、どのニーズやJTBDに対応するものなのかも明記してください。
以下の構成で、マークダウン形式のレポートとして出力してください。
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件名: ユーザーインタビュー分析レポート:田中様(プロジェクトマネージャー)
1. ユーザーの状況整理
- 発言(Say):
- 行動(Do):
- 思考・感情(Think/Feel):
2. 顕在ニーズと潜在ニーズの抽出
- 顕在ニーズ:
- 潜在ニーズ(隠れたニーズ):
3. Jobs-to-be-Done (顧客が片付けたい用事)
- Job 1:
- Job 2:
4. 核心的なインサイト
5. サービス改善アイデアの提案
- アイデア 1:
- アイデア 2:
- アイデア 3:
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- 分析は、提供されたインタビュー議事録の情報のみに基づいて行ってください。
- 専門用語を用いる場合は、企画担当者にも理解できるよう、必要に応じて簡単な説明を加えてください。
- ユーザーの不満点だけでなく、彼が達成しようとしているポジティブな目的にも焦点を当ててください。
なぜ、このプロンプトは「結果」を生み出すのか
なぜ、このプロンプトは質の高いアウトプットを生み出すのでしょうか。それは、AIに専門家の「思考プロセス」そのものをインストールしているからです。
失敗例が「課題→改善案」という単純な線でしか物事を捉えていなかったのに対し、成功例のプロンプトはAIに以下のステップを踏むことを強制します。
- 事実の多角的な整理(Say/Do/Think/Feel):
ユーザーの「発言(Say)」だけでなく、その裏にある「行動(Do)」や「感情(Feel)」まで推察させます。例えば「画面がごちゃごちゃしている(Say)」という事実から、「認知的な負荷を感じている(Feel)」という心理状態にまで踏み込みます。これにより、分析に「深さ」が生まれます。 - ニーズの二階層化(顕在/潜在):
ユーザーが口にする「顕在ニーズ」(レポートを楽に作りたい)と、その奥にある「潜在ニーズ」(報告作業から解放され、もっと戦略的な仕事に時間を使いたい)を切り分けさせます。ここで初めて、我々が本当に解決すべき課題の輪郭が見えてきます。 - 目的の再定義(Jobs-to-be-Done):
これが最も強力なステップです。「ユーザーはこのツールで何をしたいのか?」という問いを、「ユーザーはこのツールを”雇用”して、人生のどんな”用事”を片付けたいのか?」という問いに置き換えます。
「レポートを作る」のはタスクであり、目的ではありません。本当の目的(Job)は「経営層にプロジェクトの順調さを手早く証明し、信頼を得る」ことかもしれません。この視点を持つことで、単なる機能改善ではない、全く新しい価値提案の可能性が生まれるのです。 - インサイトの抽出とアイデアへの接続:
これらの深い分析を経て初めて、「核心的なインサイト」が言語化されます。失敗例のアウトプットが「課題リスト」だったのに対し、このプロンプトから生まれるアウトプットは「ユーザーを深く理解するためのドキュメント」であり、「事業の方向性を示す戦略的な示唆」なのです。
失敗例はユーザーの「不満」に、成功例はユーザーの「目的」に焦点を当てています。この決定的な違いが、アウトプットの価値を根底から変えるのです。
解決策の応用と注意点
この「探求プロンプト」は非常に強力ですが、さらに使いこなすためのヒントと注意点をお伝えします。
- カスタマイズのヒント:
- 役割を変えてみる: あなたの目的に合わせて
#役割を「敏腕マーケター」や「データサイエンティスト」に変えてみてください。全く違う切り口の分析結果が得られるはずです。 - フレームワークを入れ替える:
Jobs-to-be-Doneがしっくりこなければ、カスタマージャーニーマップの特定フェーズにおける課題やAARRRモデルにおけるボトルネックなど、あなたの使い慣れたフレームワークを指示に組み込んでみましょう。 - 複数人で統合する: 複数のインタビュー結果を
入力情報に含め、「これらのユーザーに共通するインサイトを抽出してください」と指示することで、より普遍的なニーズに迫ることができます。
- 役割を変えてみる: あなたの目的に合わせて
- 忘れてはならない注意点:
- AIの出力は「仮説」である: AIが導き出したインサイトは、あくまで質の高い仮説です。必ずチームで議論し、「この仮説は本当か?」を検証するための次のアクション(追加インタビュー、アンケート、プロトタイプ検証など)に繋げてください。
- インプットの質がすべて: 元となるインタビュー議事録の質が、アウトプットの質の上限を決めます。ユーザーの表面的な言葉だけでなく、その背景や感情を引き出すような、質の高い質問をするスキルも同時に磨きましょう。
結論 – 次のステップとマインドセットの変革
ユーザーインタビューの議事録は、単なるテキストデータではありません。それは、顧客が本当に解決したい課題、満たされていない欲求が詰まった「宝の地図」です。
今日、私たちはAIへの向き合い方を大きく変えました。
曖昧な指示でAIを「作業者」として使うのは、もうやめにしましょう。それは、宝の地図をただ眺めているのと同じです。
明確な役割と思考のフレームワークを与え、AIを「熟練の探求パートナー」として扱う。それこそが、地図を解読し、顧客の隠れたニーズという宝を掘り当てるための、鍵となるアプローチです。
この記事で紹介したプロンプトは、そのための最初の、しかし最も重要な一歩です。単なる議事録整理の「作業者」から、顧客を誰よりも深く理解し、本質的な課題を解決する「探求者」へ。
あなたのその変革を、AIは力強くサポートしてくれるはずです。さあ、一緒に宝探しを始めましょう。

